病院の個別指導対策|弁護士帯同で指摘リスクを軽減
文責:弁護士 野上 晶平
医療機関における個別指導とは?
医療機関における個別指導とは、地方厚生局が実施する指導の一環であり、医療機関の診療報酬請求の適正化を目的としたものです(健康保険法第73条・第205条、国民健康保険法第41条・第118条)。特定の医療機関を対象に、診療内容やレセプトの適正性が確認され、必要に応じて指導や是正措置が行われます。
この個別指導への対応は、医療機関にとって大きな負担となっています。しかしながら、個別指導に対する十分な準備を行うことで、指摘リスクを大幅に軽減することが可能です。また、弁護士による専門的なサポートを受けることで、より効果的な対策を講じることができます。
個別指導は、医療機関にとって大きな心理的負担となる理由の一つに、「情報が共有されにくい」という制度的特性があります。指導を受けた医療機関は、よほど親しい関係でない限り「どれくらい返還したか」「何を言われたか」を他の医療機関と共有しません。その結果、実態が明らかにならず、恐怖感だけが先行してしまう傾向があります。特に、新規個別指導は全ての医療機関が受けるため、「新規指導でキツいことを言われた」という記憶が残り、その不安が何年も続くケースが多く見られます。
個別指導の目的と実施対象
個別指導の主な目的は、医療機関の診療報酬請求が適正に行われているかを確認し、適切な医療サービスの提供を促進することにあります。
実施対象となる医療機関は、病院、診療所、歯科医院、調剤薬局など、保険診療を行っているすべての医療機関です。選定基準は『保険医療機関等及び保険医等の指導及び監査について』(厚生省保険局長通知)や『集団的個別指導及び個別指導の選定の概要について』(北海道厚生局)などで提示されていますので、いくつか代表例を取り上げてご紹介します。
- 概ね1年以内に新規指定された保険医療機関(集団指導の選定基準)
- 診療報酬請求書の平均点数が高い場合(集団的個別指導の選定基準)
医科病院:都道府県の平均点数の1倍を超える場合
医療診療所、歯科病院及び歯科診療所、薬局:都道府県の平均点数の1.2倍を超える場合
かつ
前年度・前々年度に指導を受けたものを除いた類型区分ごとの保険医療機関等の総数の上位概ね8%の範囲 - 監査の結果、戒告又は注意を受けた保険医療機関等(都道府県個別指導の選定基準)
- 支払基金等、保険者、被保険者等から診療内容又は診療報酬の請求に関する情報の提供があり、都道府県個別指導が必要と認められた保険医療機関等(都道府県個別指導の選定基準)
【要因例】
– 特定の診療行為の実施回数が他の医療機関と比べて著しく多い場合
– 患者一人当たりの診療実日数が著しく多い場合
– 同一疾病での頻回受診が目立つ場合
個別指導の具体的な流れ
個別指導は通常、以下のような流れで実施されます。まず、対象となる医療機関に対して、実施日の約1ヶ月前に個別指導の実施通知が送付されます。この通知を受けてから、医療機関は指定された患者の診療録やレセプト等の資料を準備することになります。
当日は、以下の流れで実施されます。
- 事前通知(必要書類の確認)
実施日の約1ヶ月前に個別指導の実施日時、場所、出席者、準備すべき書類などが通知されます。
個別指導には大きく2つの種類があり、それぞれ対象となるカルテ数や指導の厳格さが異なります。
【新規個別指導】
開設後一定期間経過後に実施されるもので、10名分のカルテが実施日の1週間前に指定されます。比較的軽微な指摘が多く、制度の理解を促す側面が強い傾向があります。
【通常の個別指導】
高点数や通報などをきっかけに実施されるもので、合計30名分のカルテが対象となります。まず20名分のリストが実施日の1週間前に通知され、その後10名分が実施日の前日に追加で通知されます。不適切と判断されれば、1年分遡って、全患者の外来管理加算を調べて不適切と思われる分を自主返還するように求められることもあり、より厳格な対応が求められます。 - 個別指導の実施
医師や事務担当者が指導に出席し、診療内容や請求の妥当性について説明します。この際に弁護士が帯同することが可能ですが説明や質疑応答などは医師等が行う必要があります。 - 結果通知
個別指導から1~2ヶ月程度で結果が通知されます(集団的個別指導の場合は、指導が終了した時点で、口頭で指導の結果が説明されます。)。指導の結果には、「概ね妥当」「経過観察」「再指導」「要監査」の評価があり、「概ね妥当」以外の結果になった場合は、結果に応じて次のステップが決定されます。 - 指導結果通知後の対応
「経過観察」となった場合は、改善報告書や返還金同意書等(返還金がある場合)を提出する必要があり、さらに、数ヶ月間診療報酬明細書等を提出し改善できていることを示す必要があります。もし、改善が認められなければ次年度の個別指導の対象となってしまします。
「再指導」となった場合は、約半年~1年後に個別指導が行われます。
「要監査」となった場合は、監査が行われ、結果に応じて「注意」「戒告」「取消」どの処分がされます。この中でも「取消」の処分を受けると、最大で5年間、保険診療ができなくなってしまいます。
個別指導で指摘を受けた場合のリスク
個別指導で指摘を受けた場合、上記の「経過観察」「再指導」「要監査」の結果への対応リスクだけでなく、以下のようなリスクを負う可能性があります。
- 経済的リスク
不適切な請求と判断された場合は、診療報酬の自主返還をしなければなりません。また、その対応に関する人件費もかかってしまいます。 - 運営上のリスク
改善のための診療報酬請求事務の見直し作業による業務負担の増加やスタッフの教育・研修に要する時間の増加などが運営に要する業務が増えてしまう恐れがあります。 - 萎縮診療のリスク
個別指導で過度に厳しい指摘を受けることを恐れて、必要な検査や治療を控えてしまう「萎縮診療」のリスクも無視できません。医師が患者のために必要だと判断した診療を適切に行えなくなれば、結果的に患者利益を損なうことになります。そのため、個別指導対策においては、単に指摘を避けるだけでなく、医学的根拠に基づいた診療を適切に理論立てて説明できる体制を整えることが重要です。
個別指導への事前準備
個別指導への適切な事前準備は、指摘リスクを大幅に軽減する重要な要素です。事前の対応次第で、指摘を最小限に抑えることが可能になります。
事前準備の実践的アプローチ
通常の個別指導では、最初の20名分が1週間前に通知され、その後前日に10名分が追加されます。この仕組みを活用した効果的な対策として、最初の20名分が指定された段階で、その患者たちにどのような診療を行ったかを分析することが有効です。厚生局がどのような視点でカルテを選定しているかを逆算することで、次の10名が誰になる可能性が高いかをある程度予測でき、事前準備の範囲を広げることができます。このような実践的な対策により、当日の対応をよりスムーズに進めることが可能になります。
診療録・レセプトの検証
診療録とレセプト(診療報酬明細書)の定期検証は、個別指導対策の要となります。以下の点に特に注意して検証を行いましょう。
- 基本的な診療録の記載事項
・診療の都度、適切な記載がなされているか
・症状、所見、治療計画等が十分に記載されているか
・傷病名の開始日、終了日、転帰が明確に記載されているか - 傷病名の記載の適切性
・「疑い病名」と確定診断の区別が適切か
・医学的根拠に基づいた病名記載となっているか
・急性疾患や「疑い病名」の長期継続がないか - 外来診療の算定要件
・各種加算の算定条件を満たす記載があるか
・患者の同意書等の必要書類が適切に保管されているか
・地域包括診療に関する必要事項が網羅されているか - 入院関連の記載事項
・入院診療計画が個々の患者に適した内容となっているか
・各種加算の算定に必要な記載や書類が揃っているか
・リハビリテーション等の評価結果が適切に記録されているか - 医学管理等の記載要件
・管理料算定の根拠となる記載が十分になされているか
・個々の患者に応じた具体的な指導内容が記載されているか
・必要な文書の写しが適切に保管されているか - 在宅医療の記録
・訪問診療等の実施内容や時間が明確に記載されているか
・指示内容や指導内容の要点が具体的に記されているか
・多職種連携に関する記録が適切に保管されているか - リハビリテーションの記録
・実施計画や訓練内容の要点が明確に記載されているか
・定期的な評価と患者説明の内容が記録されているか
これらの項目について、特に高点数の診療行為や算定頻度の高い項目を中心に、重点的な確認を行うことが推奨されます。
スタッフへの事前教育
個別指導に関わらず、日頃からのスタッフ教育は、組織全体での対応力を高める重要な取り組みです。診療録の適切な記載方法・算定要件の確認手順などは定期的に行い、個別指導の対象となった場合には、以下のような内容の研修・勉強会を行うと効果的です。
- 基本的な心構え
・指導の目的と意義の理解
・質問への適切な応答方法(感情的にならないなど)
・必要書類の準備と整理方法 - 当日の役割分担
・資料の準備と提出手順
・質問への回答体制
・緊急時の対応方法
弁護士帯同のメリット
個別指導において弁護士を帯同することは、医療機関にとって大きなメリットとなります。専門的な法的知識を持つ弁護士が同席することで、より適切な対応が可能となり、指摘リスクの軽減につながります。
法的観点からのサポート
弁護士は、法的な観点から、医療機関に対して以下のようなサポートを提供することができます。
- 法的解釈の提供
- リスク評価(想定される処分の程度、対応策の優先順位付け)
- 社内研修の講師担当
厚生局の警戒と制約
弁護士の同席を申し出ると、厚生局は「基本的には発言しないでください」と釘を刺すことがほとんどです。また、最近は減ってきていますが、先輩弁護士や他地域の弁護士から聞いた話では、昔は後方の席を用意されることもあったそうで、まだその慣習が残っている地域もあるようです。後方の席では指導官の発言が聞こえず記録も取れないため、当事務所では「記録を取って改善策を作るために来ている」と主張し、横に座れるように交渉します。ただし、弁護士があまりに積極的に発言すると注意・警告されることもあるため、発言のタイミングと内容は慎重に判断するようにしています。
それでも弁護士同席の意義がある理由
このような制約があっても、弁護士が同席することで大きな効果があります。個別指導で「ひどいことを言われた」という記憶を持つ医師は多いものの、弁護士が同席するようになってから「前よりも嫌味を言われなくなった」という感想が増えています。例えば、カルテの記載が不十分な場合に「先生は本当に勉強してたんですか?」といった人格否定のような発言をされるケースがありますが、弁護士がいる場では、そうした不用意な発言が減り、より実質的な議論になる傾向があります。発言は制限されても、弁護士の存在自体が手続きの適正化に寄与し、医療機関側のプレッシャーを軽減する効果があるのです。
当事務所の個別指導対策支援
当事務所では、医療機関の個別指導対策について、包括的なサポートを提供しています。豊富な経験と専門知識を活かし、クライアントの状況に応じた最適な支援を行います。
事前準備から当日対応まで一貫したサポート
当事務所の支援内容は以下の通りです。
- 事前準備段階
・自主点検の実施支援
・必要書類の確認と整備
・スタッフ研修の実施 - 当日対応
・立会いと助言提供
・質疑応答のサポート
・改善方針の提案
各段階において、医療機関の特性や課題に応じたきめ細かな支援を提供いたします。
指摘後のフォローアップ
個別指導後のフォローアップも、当事務所の重要なサービスの一つです。
- 改善計画の実行支援
・具体的な改善手順の提案
・実施状況の定期確認 - 再発防止策の構築
・チェック体制の整備
・マニュアルの作成支援
・定期的な研修実施 - 継続的なモニタリング
・改善状況の確認
・新たな課題への対応
・必要に応じた計画修正
医療機関が安定した運営を継続できるよう、長期的な視点でのサポートを提供いたします。
事例紹介
再指導を受けることになったクリニックのカルテの記載方法を一から見直した事例があります。「どういう点を改善したか」「現在はこのように対応している」ということを丁寧に説明した結果、一部指摘はあったものの「ちゃんとやっていますね」という評価を受け、自主返還なしで終了しました。このように、適切な準備と対応により、再指導でも良好な結果を得ることは可能です。
費用体系と相談の流れ
当事務所の個別指導対策支援の費用体系は、以下のような構成となっています。
- 無料初回相談
まずはお気軽にお問い合わせください。基本的には弊所の事務所内で顔を合わせてしっかりお話させていただいておりますが、お忙しい場合もあると思いますので、ご希望があればオンライン相談にも対応いたしますので、オンライン相談をご希望の場合は、お問い合わせ時にその旨お伝えください。現状の診断と支援方針の検討、概算費用の説明などをいたします。 - 個別指導に関する顧問契約プラン
個別指導に関するご契約は、次項のスポットプランを除いて、顧問契約にてお願いしています。個別指導以外の顧問契約によるサービスは「弁護士費用」のページをご覧ください。
個別指導に関する相談と助言:月3万3000円~
個別指導に関する書面の作成・プランの策定:月5万5000円~
個別指導への帯同:月11万円~ - スポットプラン
・就業規則の作成見直し:33万円~
ボリュームにより異なります。まずはご相談ください。
月額16万5000円の顧問先企業様の場合は、年1回無料で対応致します。
・企業内研修:11万円~
1テーマ2時間を想定。個別指導に関する研修以外も実施可能ですので、まずはご相談ください。
具体的な費用については、医療機関の規模や支援内容に応じて、柔軟に設定させていただきます。また、スポットプランの料金に関しましては、顧問割引も実施しております。
まとめ
医療機関における個別指導は、診療報酬請求の適正化を目的とした重要な手続きです。そのため、事前の十分な準備と適切な対応が不可欠となります。特に、診療録やレセプトの適切な記載・管理、スタッフへの教育は、指摘リスクを大幅に軽減する重要な要素となります。
さらに、個別指導への対応において、弁護士の帯同は非常に効果的です。弁護士は法的観点からの専門的なサポートを提供し、指摘事項への適切な対応を支援します。また、医療機関側の精神的負担を軽減する効果もあります。
当事務所では、個別指導対策について事前準備から当日対応、さらには指摘後のフォローアップまで、包括的なサポートを提供しております。個別指導でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。













