患者からクレームが!|初動対応の重要なポイント
はじめに
医療機関を運営されている経営者の皆様は、日々の診療において様々な患者からのクレームに直面されているのではないでしょうか。特に近年では、医療機関に対する患者の権利意識の高まりや、SNSでの投稿による風評被害のリスクもあり、クレーム対応の重要性は増す一方です。そこで、本コラムでは医療機関における適切なクレーム対応について、法的な観点を踏まえながら解説します。
医療機関におけるクレーム対応の重要性
医療機関におけるクレーム対応は、一般企業以上に慎重な対応が求められます。なぜなら、医療機関は患者の生命・身体に関わるサービスを提供しているため、対応を誤ることは信頼を大きく損なうことになりかねません。また、風評被害による経営への影響も懸念されます。さらに、医療機関特有の法的責任である応召義務との関係でも、クレーム対応には特別な配慮が必要となります。したがって、クレームへの対応方針を明確にし、組織として適切に対応できる体制を整えることは、医療機関の経営者にとって極めて重要な事項となっています。
本コラムでお伝えしたいこと
本コラムでは、医療機関におけるクレーム対応の基本的な流れについてご紹介いたします。特に初動対応として重要な、複数人での対応体制や記録の残し方など、実務上の重要なポイントを解説します。
しかしながら、医療機関が直面するクレームは多種多様であり、中には単なるクレームの範疇を超え、職員に精神的苦痛を与えるカスタマーハラスメントに該当するケースも見受けられます。
そのため、すべての問題を院内(施設内)だけで解決しようとせず、状況に応じて、弁護士等の専門家に相談し、客観的な第三者の目線から対応を検討することが重要です。本コラムでは、どのような場合に専門家への相談を検討すべきか、その判断基準についても解説していきます。
患者からのクレーム対応の基本的な流れ
医療機関でクレームが発生した際の対応は、その後の展開を大きく左右します。そのため、初動対応が極めて重要となります。ここでは、クレーム対応の基本的な流れについて、具体的に解説していきます。
複数人での対応体制の構築
クレーム対応は、必ず複数人で行うことが重要です。これには主に3つの理由があります。まず、複数人で対応することで、後々の「言った・言わない」というトラブルを防ぐことができます。次に、暴力的な行為や悪質なクレームから職員を守ることができます。そして、客観的な立場から状況を観察し、必要に応じて介入できる人員を確保できます。具体的には、主担当者1名と記録係1名の最低2名体制を基本とし、状況に応じて上司や管理者も同席するという体制が望ましいでしょう。
事実確認と主張の丁寧な聞き取り
クレームの本質を理解するためには、患者の主張をしっかりと聞き取り、事実関係を正確に把握することが不可欠です。まずは、患者の話を遮ることなく、最後まで傾聴することが重要です。その際、「具体的にいつ、どこで、どのようなことがあったのか」という5W1Hを意識しながら聞き取りを行います。また、感情的になっている患者に対しては、まず気持ちを受け止めることを優先し、落ち着いてから事実確認を行うようにします。患者の怒りがおさまらず、主張が事実かどうかを確認できない場合は、「ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」といった謝罪の言葉を適切に使用することで、患者の怒りを和らげることができます。
別室への案内とプライバシー配慮
クレーム対応は、必ず別室で行うようにしましょう。これにも、以下の3つの重要な意味があります。
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他の患者に不安を与えないようにする
待合室などでクレーム対応を行うと、他の患者に不安や不快感を与え、医療機関全体の雰囲気を悪化させてしまう可能性があります。 -
クレームを訴える患者のプライバシーを守る
医療に関する内容は特に機密性が高く、周囲に聞かれないよう配慮する必要があります。 -
落ち着いた環境で話し合いを行う
別室であれば、患者も冷静になりやすく、建設的な対話が可能となります。
クレーム記録の残し方と管理方法
クレーム対応の記録は、後々のトラブル防止や改善策の検討のために極めて重要です。記録には以下の項目を必ず含めるようにしましょう。
- 発生日時と場所
- クレームを訴えた患者の基本情報
- クレームの具体的内容(5W1Hを意識して)
- 対応者の氏名と役職
- 対応の経過と結果
- 今後の対応方針
これらの記録は、院内で統一したフォーマットを使用し、電子データとして保管することで、後々の分析や共有が容易になります。また、個人情報保護の観点から、アクセス権限を適切に設定し、セキュリティ管理を徹底することも重要です。
対応の公平性の確保
クレーム対応において、特定の患者を特別扱いすることは避けなければなりません。これには主に2つの理由があります。まず、特別扱いをすることで、他の患者との公平性が損なわれ、新たなクレームを誘発する可能性があります。次に、一度特別な対応をしてしまうと、それが前例となり、同様の要求が続く可能性があります。そのため、院内で統一された対応基準を設け、すべての患者に対して公平な対応を心がけることが重要です。
クレーム対応体制の整備
クレームへの適切な対応には、事前の体制整備が不可欠です。ここでは、具体的な体制整備の方法について解説します。
マニュアルの整備と職員研修
効果的なクレーム対応のためには、明確なマニュアルの整備と定期的な職員研修が重要です。マニュアルには以下の内容を盛り込むことをおすすめします。
- クレーム発生時の連絡体制
- 対応の基本手順とその流れ
- 記録の方法と保管ルール
- エスカレーション基準(上司に判断や指示を仰いだり、対応を要請したりする基準)
- 具体的な応対例や注意点
また、職員研修では、マニュアルの内容を確認するだけでなく、ロールプレイングなどを通じて実践的なスキルを身につけることも重要です。特に、新人職員の入職時に、研修を実施すると効果的です。
組織全体での情報共有の仕組み
クレーム情報は、組織全体で共有し、再発防止に活かすことが重要です。そのために、以下のような情報共有の仕組みを構築することをおすすめします。
- 定期的なクレーム報告会の開催
- クレーム事例データベースの構築
- 部門間での情報共有ミーティング
- 改善策の検討会議
これらの取り組みを通じて、クレームの傾向を分析し、サービス改善につなげることができます。また、類似のクレームが発生した際の対応もスムーズになります。
法的対処が必要なケースの見極め方
すべてのクレームに対して法的対処が必要なわけではありませんが、以下のようなケースでは、早期に法律専門家に相談することをおすすめします。
- 暴力や脅迫が伴うケース
- 明らかに不当な要求や過度な賠償請求
- SNSでの誹謗中傷や風評被害
- 医療過誤を主張するケース
- 個人情報の取り扱いに関するトラブル
また、以下のような状況に該当する場合も、専門家への相談を検討すべき判断基準となります。
- 院内での対応が長期化し、解決の目処が立っていない
- 複数の部署や職員が対応に関わっている
- 職員の心身の健康に影響が出始めている
- 同様のクレームが繰り返し発生している
- 対応方針について院内で意見が分かれている
これらのケースでは、早期に専門家に相談し、適切な法的対応を取ることで、医療機関と職員の権利を守り、問題の拡大を防ぐことが可能です。特に、カスタマーハラスメントが疑われるケースでは、職員の安全と健康を守る観点から、できるだけ早期の段階で専門家への相談を検討することをおすすめします。
医療機関特有の法的責任と対応
医療機関には、一般企業にはない応召義務という特有の法的責任があります。
医師法に基づく応召義務とは?(応召義務の基本的な考え方)
応召義務とは、医師法第19条第1項に規定された「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という義務です。この義務は、以下の3つの特徴があります。
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応召義務は医師個人に課せられた義務
ただし、実際の医療現場では、医療機関としての組織的な対応が求められます。
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「正当な事由」がある場合は、診療を拒否することができる
この「正当な事由」の判断が実務上の重要なポイントとなります。
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違反した場合は、行政処分の対象となる可能性がある
そのため、診療拒否を行う際は、その判断に至った理由を明確に説明し、記録を残しておく必要があります。
診療拒否が認められるケース
診療拒否が認められる「正当な事由」として、以下のようなケースが考えられます。
・医師や医療機関の能力を超える疾患の場合
・設備や人員体制上、適切な医療を提供できない場合
・患者が暴力行為や著しい威圧的言動を行う場合
・診療費の不払いが継続している場合
・医療機関の診療時間外である場合
・医師が病気や疲労で診療継続が困難な場合
ただし、これらの場合でも、緊急性が高い場合は診療拒否が認められない可能性もあります。また、正当な事由で診療を拒否をしても、可能な限り他の医療機関を紹介するなど、患者が適切な医療を受けられるよう配慮することが重要です。また、判断の根拠となる事実を詳細に記録しておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
当事務所による具体的なサポート内容
当事務所では、医療機関のクレーム対応に関して、以下のような包括的なサポートを提供しています。
クレームに関する法的アドバイス
医療機関が直面するクレームについて、法的観点から適切なアドバイスを提供いたします。具体的には、以下のようなサポートを行っています。
- クレーム対応の法的リスク評価
- 応召義務に関する判断支援
- 患者との交渉方針の策定
- 文書作成(回答書、念書など)
特に、医療機関特有の法的問題については、TLEOグループ(虎ノ門法律経済事務所)には医師免許を持つ弁護士が在籍していることもあり、一般的な法律事務所と比べても、経験を活かした実践的なアドバイスの提供が可能です。
対応マニュアル作成・クレーム対応体制の構築支援
医療機関の実情に合わせた、効果的なクレーム対応体制の構築をサポートいたします。
- クレーム対応マニュアルの作成支援
- 記録フォーマットの整備
- 情報共有システムの構築アドバイス
- エスカレーションルールの策定
- リスク管理体制の構築支援
これらの整備により、組織としての対応力を強化し、クレームの予防と適切な対応が可能となります。
職員研修・教育プログラムの提供
医療機関の職員向けに、実践的な研修・教育プログラムを提供いたします。先ほど述べた、新人職員の入職時の研修以外にも、経営者や人事担当者向けの勉強会の実施もいたします。
- クレーム対応の基本研修
- ロールプレイング研修
- 法的知識の習得支援
- マニュアルの運用研修
- 最新または重要判例の勉強会
まとめ
医療機関におけるクレーム対応は、信頼関係の維持と円滑な医療サービスの提供にとって非常に重要です。初動対応を誤ると、問題が深刻化し、医療機関の評判や経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、複数人での対応体制の構築や丁寧な事実確認、適切な記録の管理など、基本的な対応手順を整備しておくことが求められます。また、応召義務との関係で診療拒否の判断が必要な場合は、その判断基準を明確にし、適切な対応を取ることが重要です。
すべてを院内で解決しようとするのではなく、弁護士などの専門家の意見を取り入れることが非常に有効です。クレーム対応でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますので、お気軽に当事務所までご相談ください。