私生活上での非行違法行為をする社員への対応

本来、社員の私生活上の非行違法行為(非違行為)について会社が懲戒処分をもって取り締まることのできる領域ではありません。それは、雇用契約を締結したとはいえ、社員は私生活についてまで会社の支配に服するものではないからです。

 

では、社員が私生活上でどのような非違行為をしても懲戒処分をできないのかというと、そうではありません。

これについては、【日本鋼管事件・最高裁判所 昭和46年3月15日】の判決文が参考になります。

営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。

また、私生活上での非違行為への懲戒処分が認められる判断要素についても述べられています。

従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。

これをふまえて、裁判例をいくつかご紹介します。

日本鋼管事件・最高裁判所 昭和46年3月15日

以下のような理由から、社員の非違行為を事由に諭旨解雇または懲戒解雇するには不十分とされました。
(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)

【当該行為の性質、情状】

当該社員の行為が破廉恥な動機、目的に出たものではなかった。
(在日アメリカ空軍の使用する基地の拡張のための測量を阻止するため、他の労働者ら約二五〇名とともに、一般の立入りを禁止されていた同飛行場内に不法に立ち入り、警備の警官隊と対峙した際にも、集団の最前列付近で率先して行動した。)
刑罰が「罰金2,000円」と比較的軽微であった。

 

【従業員の会社における地位】

従業員3万人を擁する大企業の工員に過ぎなかった。
(ただし、3名中1名は組合専従者であった。)

 

小田急電鉄事件・東京高等裁判所 平成15年12月11日

以下のような理由から、社内における処分が懲戒解雇という最も厳しいものとなったとしても、やむを得ないとされました。
(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)

 

【当該行為の性質、情状】

平成12年5月、痴漢行為により略式起訴され、罰金20万円に処せられた。
会社の事情聴取により平成9年にも痴漢行為をし、5万円の罰金刑に処せられたことも自供した。
(後述の、平成12年11月の痴漢行為後の担当社員との面談で、平成3年にも痴漢行為で検挙され、罰金3万円に処せられたことを話した。)

 

平成12年5月の痴漢行為に対する懲戒処分は、事件の重大性を自覚し、深く反省していることや、その行為が外部に発覚することがなかったこと等を考慮し、昇給停止及び降職に止めることとなった。当該社員は、「今後、このような不祥事を発生させた場合には、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたい」との始末書を作成し、会社に提出した。

平成12年11月、痴漢行為により起訴され、懲役4月、執行猶予3年の有罪判決を受けた。
(度重なる電車内での痴漢行為を理由に懲戒解雇した。)

 

【会社の事業の種類、従業員の職種】

電鉄会社として、痴漢撲滅運動に取り組んでいた。
当該社員は、電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき電鉄会社の社員であり、その従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない立場にあった。

 

退職金について

上記、【小田急電鉄事件】で、当該社員は、懲戒解雇の無効だけでなく、「懲戒解雇に伴い退職金を不支給とするには、長年の功労を消し去るほどの不信行為が必要であるが、本件ではそれがあったとはいえない」などと主張して、退職金相当額と遅延損害金の支払いを求めていました。

 

【会社の退職金支給規則】

初任給等を基礎として定められる退職金算定基礎額及び勤続年数を基準として算出した退職金を支給する旨と懲戒解雇により退職するもの、または在職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則として、退職金は支給しないと記載していた。

 

【東京高等裁判所の判断】

上記のような退職金の支給制限規定は、一方で、退職金が功労報償的な性格を有することに由来するものである。
しかし、他方、退職金は,賃金の後払い的な性格を有し、従業員の退職後の生活保障という意味合いをも有するものである。
ことに、本件のように、退職金支給規則に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件が明確に規定されている場合には、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。

 

このような賃金の後払い的要素の強い退職金について、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。

非違行為が、強度な背信性を有するとまではいえない場合であっても、常に退職金の全額を支給すべきであるとはいえない。
そうすると、このような場合には、当該不信行為の具体的内容と被解雇者の勤続の功などの個別的事情に応じ、退職金のうち、一定割合を支給すべきものである。

 

として、個別的事情を考慮し、会社に「本来の退職金の支給額の3割と遅延損害金の支払い」を命じました。

 

まとめ

まずは、就業規則の懲戒事由を明記しておきましょう。

そして、実際に、社員が非違行為(犯罪行為)をしてしまったときには、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種や、「会社名まで報道され」、客観的に見て会社の信用を大きく毀損したなど、諸般の事情を総合的に判断して会社の社会的評価に及ぼす悪影響が
重大であるのかを見極めて懲戒処分を判断することが大切です。

また、懲戒解雇が認められても、退職金はその意味合いから【小田急電鉄事件】のように、(一定分の)退職金を支払う必要があると思っておいた方が良いでしょう。

 

私生活上での非違行為をする社員への懲戒処分、特に懲戒解雇はよほどのことが無い限り、認められないのが実情です。
ですので、安易に懲戒処分をせず、まずは、弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。

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