ローパフォーマー社員への対応
ローパフォーマー社員とは、能力不足などで、常に低い成果しか出せない社員のことを言います。
他の問題社員とは違い、会社に実害が出づらいため、対応が難しくなります。
【問題社員対応】のページでも解説したとおり、日本の労働法体系は、終身雇用など
(メンバーシップ型雇用)を前提としているため、能力不足を理由にすぐに解雇することはできません。
新卒採用と中途採用
同じローパフォーマー社員でも、新卒採用か中途採用かで対応方法が異なってきます。
それは、新卒採用は長期雇用システムの中で、時間をかけて能力を身に付けていくことが想定されるのに対して、
中途採用は、即戦力となるような能力を期待し、相応の賃金水準で採用されることが多いからです。
新卒採用(≒当初から高水準の能力を期待して採用したわけではない)社員と
中途採用(≒高水準の能力を期待して採用した)社員に分けて対応方法を解説していきます。
新卒採用
能力不足を理由に解雇するための条件を示した裁判例があるのでご紹介します。
エース損害保険事件・東京地方裁判所 平成13年8月10日
特に、長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた
正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は、
労働者に不利益が大きいこと、それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして、
それが単なる成績不良ではなく、企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は
重大な損害を生じる恐れがあり、企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し、
かつ、その他、是正のため注意し反省を促したにもかかわらず、改善されないなど
今後の改善の見込みもないこと、使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの
労働者に宥恕すべき事情がないこと、配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して
濫用の有無を判断すべきである。
※宥恕(ゆうじょ)・・・寛大な心で罪を許すこと。
このように、能力不足を理由に解雇することは簡単ではありません。
ローパフォーマー社員には次のような対策を取ることから始めましょう。
①社員の能力と業務内容
社員が成果をあげることができないのは、社員の能力に対して
与えている業務の難易度が高いことや、量が多いことが原因の場合があります。
そこで、社員と話し合い、まずは達成可能な内容の業務内容・量を設定し、
達成できれば少しずつハードルを上げ、社員の能力アップを図りましょう。
それでも、改善が難しいときには、本人の希望を確認しつつ
部署を異動して、全く別の業務に挑んでもらうことも考慮しましょう。
②注意指導
注意指導するときは、こちらが求めた業務内容と、社員が達成できた業務内容を具体的に示し、
何故、達成できなかったのか聞き、どうすれば達成できるかのアドバイスをすることが大切です。
そして、他の問題社員対応と同じく、話し合いから始め、メールや文書など
記録が残る方法での注意指導が必要です。
③証拠
業務内容の変更、注意指導をしても改善の余地がない場合は、解雇を視野に入れなければなりません。
しかし、証拠が不十分だと解雇は認められません。
これについては、業務態度の証拠が抽象的で、相対的な人事評価が水準に達していないことを
理由とした解雇が認められなかった裁判例が参考になります。
セガ・エンタープライゼス事件・東京地方裁判所 平成11年10月15日
※(債務者=会社・債権者=社員)
①抽象的な証拠
債務者提出にかかる各陳述書(中略)には、債権者にはやる気がない、積極性がない、
意欲がない、あるいは自己中心的である、協調性がない、反抗的な態度である、
融通が利かないといった記載がしばしば見受けられるが、これらを裏付ける
具体的な事実の指摘はなく、こうした記載は直ちに採用することはできない。
②相対的な人事評価
債権者について、検討するに、(中略)の従業員の中で下位10%未満の考課順位ではある。
しかし、(中略)人事考課は、相対評価であって、絶対評価ではないことからすると、
そのことから直ちに労働能率が著しく劣り、向上の見込みがないとまでいうことはできない。
(中略)このように相対評価を前提として、一定割合の従業員に対する退職勧告を
毎年繰り返すとすれば、債務者の従業員の水準が全体として向上することは明らかであるものの、
相対的に10%未満の下位の考課順位に属する者がいなくなることはありえないのである。
したがって、従業員全体の水準が向上しても、債務者は、毎年一定割合の従業員を
解雇することが可能となる。しかし、就業規則一九条一項二号にいう「労働能率が劣り、
向上の見込みがない」というのは、右のような相対評価を前提とするものと解するのは相当でない。
③試用期間中の問題行動があったが、正式に採用された
入社後三か月を経過して債務者に正式に採用されたことからすると、
当時労働能力ないし適格性が欠如していたということはできない。
(中略)就業規則一九条一項四号(甲六)によれば、債務者においては、
試用期間中の従業員でさえ、解雇する場合があることを想定していることからしても、
債権者に労働能力ないし適格性が欠如していたとすれば、債務者としては、
解雇あるいは正式採用しないといった方法を取ることができたのである。
それにもかかわらず、債務者が債権者を試用期間の経過後、
正式に採用していることからすれば、債務者の主張は採用できない。
(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)
中途採用
特定の役職としての能力を期待して採用した社員の場合はどうでしょうか。
これについては解雇が有効とされた裁判例と無効とされた裁判例がありますのでご紹介します。
解雇を有効とした裁判例
(フォード自動車(日本)事件・昭和59年3月30日 東京高等裁判所)
①地位を特定した契約
原告は被告会社に採用される前は(中略)ほぼ一貫して人事の仕事をしてきたものであること、
被告会社としては、原告を人事本部長として採用するにあたり、原告が米国で教育を受けたという
学歴及び右職歴に注目したこと、(中略)もし提供される職位が人事本部長ではなく
一般の人事課員であつたならば、原告は被告会社に入社する意思はなかつたこと、
被告会社としても原告を人事本部長以外の地位・職務では採用する意思がなかつたこと等が認められ、
以上の事実を総合すれば、本件契約は、人事本部長という地位を特定した雇用契約であると解するのが
相当である。
②業務の能率(一部抜粋)
社内連絡等の文書の起案、作成、テレツクス打ちを自ら行うのではなく、
人事部門の部下に命じてそれをさせることが多かつた。
人事部門に原告の関心を集中して欲しい、文書の起案は人事部門の部下に任せるのではなく、
自分自身で行つて欲しい旨の指導・勧告を与えた。
(他の具体例は裁判所のホームページよりご覧ください。)
③降格・異動について
人事本部長という地位を特定した雇用契約であるところからすると、被告会社としては
原告を他の職種及び人事の分野においても人事本部長より下位の職位に
配置換えしなければならないものではなく、(中略)人事本部長という地位に要求された業務の
履行又は能率がどうかという基準で規則(ト)に該当するか否かを検討すれば
足りるものというべきである。
④試用期間について
被告会社が原告を試用期間中(中略)に解雇しなかつた理由は、(中略)試用期間中に
被告会社が原告の人事本部長としての能力を判定することを怠つたというよりは、
むしろ原告の立場を考慮し、その能力を実証する機会を与えたためであることが認められ、
(中略)試用期間中に解雇しなかつたことをもつて権利の濫用となる余地はないというべきである。
(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)
・昭和57年2月25日 東京地方裁判所
・昭和59年3月30日 東京高等裁判所
解雇を無効とした裁判例
(オープンタイドジャパン事件・平成14年8月9日 東京地方裁判所)
※(被告=会社・原告=社員)
①適性の欠如(一部抜粋)
関係者を訪問する等して、関連情報や参考資料を入手する等するとともに、韓国企業との間で
連絡を取り合い、業務の進捗状況を報告する、相手方製品の情報入手に必要な秘密保持契約を
締結する相手企業の求めに応じて事業計画を提示する等、同業務の遂行に必要な事項を実施しており、これらが不適切であったと認めるに足りる的確な証拠はない。
TOEICの試験において990点中760点(リスニング、リーディングとも各380点、達成率83.7%)を
得ており、これは、どんな状況でも適切にコミュニケーションができる素地を備えており、
ビジネスマンが海外部門で海外駐在員として対応できる程度にあるものとされていること、
原告が、韓国企業向けの被告の紹介文(A4版5枚のもの)を英語で作成していること、
原告が、被告に入社する前に、外資系企業に勤務した経験があり、外国企業と
英語で業務交渉をしていたことが認められる。(中略)
事業開発部長として必要な実務英語力に欠けていたと認めることはできない。
②試用期間について
原告の業務遂行状況に照らすと、仮に原告が事業開発部長として被告主張のような
職責を果たすことを期待されていたとしても、原告が解雇されるまでの2か月弱の間に
そのような職責を果たすことは困難であったというべきであり、また、その後に雇用を継続しても、
原告がそのような職責を果たさなかったであろうと認めることもできない。
したがって、原告が被告主張のような職責を果たさなかったことをもって、
原告の業務遂行能力が不良であったと認めることはできない。
オープンタイドジャパン事件のように、試用期間中であっても
合理的な理由が無ければ、本採用を拒否したり、解雇することはできません。
社員へ求めていた能力と、実際の社員の能力に差が生じている場合は、
弁護士などの第三者の専門家に相談し、合理的な理由となるのかを判断する必要があります。
まとめ
ローパフォーマー社員は他の問題社員と比べて、問題行動の具体例を示すことが難しくなります。
しかし、改善の指導注意するときにも、解雇に踏み切るときにも、具体的な内容を説明する必要が出てきます。
社員が能力不足だと感じたときには、どのような行動・態度が原因かを記録し、
中途採用する際には、地位や業務内容を特定した契約書にしておくとよいでしょう。
解雇をする際の、合理的な理由であるかの判断や、雇用契約書の作成・見直しなど、
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