協調性のない社員・業務命令に従わない社員への対応

経営者の皆様の中には、「職場の和を乱す従業員がいて困っている」「協調性がない社員をどう扱えばよいかわからない」といったお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

社内で、他の従業員とトラブルを起こしたり、上司の命令を無視あるいは反発するなど、協調性のない社員への対応は【遅刻・無断欠席をする社員】と同じく当該社員にヒアリングをし、改善を促すことから始めましょう。

このような問題社員への対応は、感情的になって急いで解雇に踏み切ると、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。今回は、協調性のない従業員に対する適切な対処法を、法的リスクを最小限に抑えながら、私が処理した実際の事案も踏まえて、段階的に解説いたします。

1.まずは「組織で働く意識」を持たせることから

「協調性がない」だけを理由にいきなり解雇することはできません。

会社という組織では、従業員同士が協力し合って業務を進めることが大前提です。近年、テレワーク(※在宅勤務など、オフィス以外で働く勤務形態)が普及し、直接顔を合わせる機会が減ったとはいえ、協調性の重要性は変わりません。

実際に、協調性不足を理由とした解雇が認められた判例(ネギシ事件・東京高等裁判所平成28年11月24日判決)もあります。この事例では、会社からの指導を受けても言葉遣いや態度を改めなかった従業員の解雇が有効とされました。

ただし、この会社は小規模で配置転換ができない事情がありました。つまり、ある程度の規模の会社であれば、配置転換などの選択肢を検討する必要があるということです。

【経営者がすべきこと】

まずは当該従業員に対し、「組織で働くとはどういうことか」を丁寧に説明し、協調性の重要性を理解させる指導を行いましょう。

2.段階的な懲戒処分で改善を促す

丁寧な指導を行っても改善が見られない場合は、さらに具体的な対応が必要です。

【記録を残すことが重要】

  • 注意指導は必ず書面で行い、理由を詳細に記載してください
  • 「いつ、誰が、何を言ったか」「どのような業務命令に背いたか」を具体的に記録
  • その行為がどのような悪影響を与えているかも明確に説明

協調性不足は主観的な判断になりがちなため、客観的に見ても問題があると分かるよう、詳細な記録を残すことが不可欠です。

【配置転換の検討】

可能であれば、改善の機会として配置転換も検討しましょう。これにより、環境を変えることで問題が解決する場合もあります。これらの注意指導や配置転換を経ても改善しない場合、ようやく普通解雇が有効となる可能性が出てきます。

3.トラブル回避のための退職勧奨

解雇に踏み切る前に、労使紛争(※会社と従業員の間で起こる争い)を避けるため、退職勧奨を検討することをおすすめします。

【退職勧奨の進め方】

  1. これまでの注意指導の記録をまとめた解雇理由書を作成
  2. 問題行動の一覧を示して合意退職を提案
  3. それでも応じない場合は、普通解雇を本格検討

【実務的なテクニック】

解雇通知の際に「退職届を提出していただければ解雇を撤回いたします」と伝える方法もあります。これにより合意退職での解決を図り、トラブルを最小限に抑えることができます。

4.【重要】「辞めさせること」を目的にしてはいけません

最も重要なポイントをお伝えします。

一連の指導や懲戒処分は、決して「従業員を辞めさせる」ことを目的として行ってはいけません。少なくとも、そのような意図を表に出してはいけません。あくまで「会社として改善を促している」という姿勢を貫くことが大切です。経験豊富な労働問題の専門家が見れば、会社の真の意図は案外簡単に見抜かれてしまうものです。

 

5.業務命令に従わない社員に関する裁判例

なお、業務命令に従わない社員への懲戒処分が認められるには、就業規則などに
当該業務命令に服するべき旨の規定があり、当該規定内容が合理的なものでなければなりません。

懲戒処分を有効とした裁判例(電電公社帯広局事件・最高裁判所 昭和61年3月13日)

精密検査受診命令を拒否した社員の懲戒処分(戒告)有効性が争われた事例です。

【裁判要旨】

健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対し二週間の入院を要する
頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命ずる業務命令を発した場合において、
右職員に労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があり、
右検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を有するなど判示の事情があるときは、
業務命令は有効であり、これに違反したことを理由とする戒告処分は適法である。

(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)

 

【ポイント】

  • 健康管理規程を定めており、その規程には「健康管理従事者の指示もしくは指導を受けたときは、これを誠実に守らなければならない」など、職員の遵守すべき義務を明らかにしていました
  • 就業規則・健康管理規定の内容は合理的なものというべきであった。
  • 健康管理従事者による指示の具体的内容も健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定し得る内容の指示であった。

※当該社員が、受診拒否の意向を有しており、業務命令発出という形にまで発展したことを重視し、非公開で団体交渉が行われたが、当該社員を含む12名の職員が立ち入り、退去指示にも従わなかった。このときに約10分間、職場を離脱したことも処分の対象となっています。

懲戒処分を無効とした裁判例(富士重工業事件・最高裁判所 昭和52年12月13日)

就業時間中に、「原水爆禁止運動を行った社員に関する調査」に協力しなかった社員に対しての懲戒処分(譴責)の有効性が争われた事例です。

【裁判要旨】

労働者は、使用者の行う他の労働者の企業秩序違反事件の調査について、
これに協力することがその職責に照らし職務内容となつていると認められる場合でないか、
又は調査対象である違反行為の性質・内容右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、
より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、右調査に協力することが
労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的であると認められる場合でない限り、協力義務を負わない

(全文は裁判所のホームページよりご覧いただけます。)

 

【ポイント】

  • 当該社員が、他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者(調査に協力することがその職務の内容となっている者)では無かった
  • 調査の質問内容が、原水爆禁止運動を行った社員Dによって、「職務執行を妨害しなかったか」など、社員Dの就業規則違反の事実を聞き出すものでなく、原水爆禁止運動の組織、活動状況等を聞き出そうとしたものであった。

6.その他のポイント

パワハラと主張されないように注意

上司に口答えをしたり、命令を無視するような社員は、「自分は正しく、上司が間違っている」と考えていることが多いです。そこで、感情的になって叱りつけてしまうとパワーハラスメントであると主張されてしまう危険性があります。

まずは、当該社員にどうしてこのような行為をするのかを確認するのはもちろんのこと周りにいる関係者にも事情聴取を行い、事実関係を確定させましょう。

具体的に説明する

事実関係がはっきりとし、注意指導をするときには、「●●さんに対して『○○○』と言った」「上司の『○○○』という業務命令に背いた」など当該社員の問題行為を具体的に挙げて、この行為によってどのような悪影響がでているのかを
具体的に説明して、改善を促しましょう。(このときのやり取りを書面にまとめておくことも大切です。)

それでも、改善されないときは【遅刻・無断欠席をする社員】にある項目『証拠③【注意指導】』と同じく、文書やメールでの注意指導もしつつ、軽い懲戒処分も考慮する必要があります。

まとめ

協調性のない従業員への対応は、感情的にならず、法的手続きを正しく踏むことが何より重要です。急いで解雇に踏み切ると、労働審判(※労働問題を簡易・迅速に解決する手続き)や訴訟に発展し、かえって大きな損失を被る可能性があります。

業務命令が合理的であるかの判断は、第三者の専門家に確認してもらうことをおすすめします。協調性のない社員・業務命令に従わない社員でお困りでしたら、当事務所までご相談ください。

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