されてからでは遅い、相談例から学ぶ内部告発への対処
内部告発とは
「組織内の人間が、その組織で行われている違法な行為を、報道機関などの外部に知らせること」をいい、
内部告発をした者は公益通報者保護法によって保護されます。
今回ご紹介する相談例は、
【組織内での違法な行為が無かったが、内部告発によって不利益を被った。内部告発者を解雇できるのか?】
という内容です。
結論から言うと【
解雇することは原則として
無効と考えるべき】です。
では何故、そのような結論に至ったのでしょうか。
公益通報者保護法の内容を、内部告発をされるに至った経緯と共に確認していきましょう。
相談内容(内部告発をされるに至った経緯)
A氏が経営している介護保険施設は、法令によって定められている
常勤医師、医学療法士の設置要件をギリギリながらも満たしていました。
しかし、介護施設の従業員X氏が、「この介護保険施設では常勤の医師がおらず、
理学療法士も人数が足りません。このままでは法律違反なので、是正しましょう。」と
何度かA氏に進言しましたが、
A氏はこれを相手にしませんでした。
業を煮やしたX氏は報道機関へ匿名通報し、後日その内容が報道されて、
A氏が経営している介護保険施設は、入所者からの苦情、入所予定者のキャンセルが相次ぎました。
施設に多大な損害をもたらしたX氏を懲戒解雇することは可能でしょうか。
公益通報
まず、X氏の行為は公益通報となるのかを確認していきましょう。
公益通報とは、
①労働者が、
②労務提供先の不正行為を、
③不正の目的でなく、
④一定の通報先に通報することをいいます。
①労働者
「労働者」とは労働基準法第9条に規定する労働者のことをいいます。
正社員、派遣労働者、アルバイト、パートタイマーなどのほか、公務員も含まれます。
X氏はA氏が経営している
介護保険施設で働いているので①の要件をを満たしています。
②労務提供先の不正行為
労務提供先は3通りあります。
- 雇用元(勤務先)の事業者
- 派遣先の事業者
- 取引先の事業者
不正行為は消費者庁が掲載している「
通報の対象となる法律一覧表」に
含まれている法律に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰につながる行為をいいます。
今回の場合、労務提供先は「
雇用元(勤務先)の事業者」に
不正行為は「介護保険施設の常任医師などの
設置要件に違反していること」が該当します。
③不正の目的
通報した目的が、不正の利益を得る目的、他人に危害を加える目的、
その他の不正の目的であれば、公益通報にはなりません。
今回の場合では、
不正の目的とは認められません。
④一定の通報先(と保護用件)
通報先は3つあり、それぞれに保護を受けるための要件が異なります。
- 事業者内部への通報
違法行為などが存在すると思料したとき
- 権限のある行政機関
違法行為などが存在すると信ずるに足りる相当の理由があること
- その他の事業者外部(報道機関など)
違法行為などが存在すると信ずるに足りる相当の理由があることに加えて、
(イ)~(ホ)のいずれか1つに該当すること
(イ)事業者内部・行政機関への通報では不利益を受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(ロ)事業者内部への通報では証拠の隠滅などのおそれがると信ずるに足りる相当の理由がある場合
(ハ)労務提供先から通報しないことを正当な理由なく要求された場合
(ニ)書面(メールなども含む)により事業者内部に通報した日から20日経過しても
労務提供先などから調査を行う通知がない、または正当な理由が無く調査を行わない場合
(ホ)個人の生命や身体に危害が発生し、または急迫の危険があると信ずるに足りる相当な理由がある場合
今回の場合は、
その他の事業者外部への通報になります。
「違法行為などが存在すると信ずるに足りる相当の理由」は
- Xの進言に対して直ちに調査を行っていれば違法行為があったかどうかは容易に判断できた
- 報道機関が、(おそらく裏付け調査を経て)報道に至っている
ことから認められます。
「(イ)~(ホ)のいずれか1つ」は
(イ)または(ロ)が該当します。
- (イ)が該当する場合の例(消費者庁「公益通報保護法と制度の概要Q15」より)
法令違反行為の実行又は放置について経営者の関与がうたがわれる場合
- (ロ)が該当する場合の例(消費者庁「公益通報保護法と制度の概要Q16」より)
法令違反行為の実行又は放置について証拠を保有している者や経営者の関与がうたがわれる場合
以上のことから、X氏が行った内部告発は、
保護用件を満たした公益通報となります。
公益通報者保護法
公益通報者保護法によって、労働者が保護用件を満たして公益通報をした場合、
公益通報をしたことを理由とする
解雇、
その他の不利益な取り扱いをすることが
禁止されています。
不利益な取り扱いには
- 降格
- 減給
- 訓告
- 自宅待機命令
- 給与上の差別
- 退職の強要
- もっぱら雑事に従事させる
- 退職金の減額・没収
などが該当します。
結論
公益通報の項目でも書きましたが、今回のX氏の行為は公益通報として認められます。
公益通報として認められれば、公益通報者保護法によりX氏を解雇することができません。
それでも、X氏を解雇したい場合は、裁判で勝つためにはA氏(介護保険施設)側が
- X氏の告発内容は虚偽である
- A氏が経営している介護保険施設の人員配置を容易に確認できたにも関わらず、
ずさんな調査でこれを確認しないまま内部告発(及び報道)に至った事実
を立証できなければならず、非常に難しい状態になります。
対処方法
ご覧いただいたように、内部告発をされてしまうと大きな問題を抱えるおそれがあります。
これを避けるためには、事前に対策をしておく必要があります。
今回の場合であれば、
X氏が「要件を満たしておらず、法律違反になります。是正しましょう。」と進言してきたときに、
弁護士などの専門家に
本当に法律違反になるのかを調査・判断してもらい、
その結果をX氏に伝えていれば、このような事態は避けることができたのではないでしょうか。
もちろん、弁護士への相談は公益通報があったときでなくてもかまいません。
現代の企業が発展するためには「
コンプライアンス(法令遵守)」が重要になってきています。
まだ顧問弁護士がおられない企業様は、内部告発への対処、コンプライアンスの実現のためにも
弁護士との顧問契約を、ぜひご検討してください。
参考資料(公益通報者保護法を詳しく知りたい方へ)