企業間契約書の重要性と作成手順|弁護士が徹底解説

契約書を作成しようとしても、「どのような手順で進めていったら良いのかわからない」ということがあるでしょう。以下では、契約書の作成方法について、虎ノ門法律経済事務所の弁護士がわかりやすく解説します。

契約書とは:企業間取引における役割と重要性

企業活動において、取引先との関係を適切に構築し維持することは、事業の継続的な発展のために不可欠です。そのため、企業間の取引では、契約書の作成が重要な意味を持ちます。契約書とは、取引における当事者間の権利義務関係を明確にし、書面として残す重要な文書です。特に、企業間の取引においては、取引金額が高額になることも多く、また、取引内容も複雑化する傾向にあるため、契約書の重要性は一層高まっています。

契約書が果たす3つの重要な役割

企業間取引において、契約書は単なる形式的な書類ではなく、以下の3つの重要な役割を果たします。

  1. 合意内容の明確化
    口頭での約束は、時間が経過すると記憶が曖昧になったり、担当者が変更になったりすることで、当事者間で認識の相違が生じやすくなります。しかしながら、契約書を作成することで、取引条件や役割分担などの重要な合意事項を明確に記録することができます。
  2. トラブル防止
    契約書には、債務不履行が生じた場合の対応や損害賠償、解除条件など、将来起こり得るトラブルへの対処方法をあらかじめ定めておくことができます。そのため、実際にトラブルが発生した際にも、契約書に基づいて冷静な対応が可能となり、トラブルの早期解決や、さらなる紛争への発展を防ぐことができます。
  3. 証拠としての機能
    契約書は、取引における重要な証拠となります。万が一、裁判などの法的手続きに発展した場合でも、契約書があれば、当事者間の合意内容や権利義務関係を客観的に証明することができます。特に、契約書に実印を押印し、印鑑証明書を添付することで、より高い証明力を確保することができます。

契約書作成を軽視するリスク

契約書の作成を軽視してしまうと、様々なリスクが生じる可能性があります。たとえば、口頭での合意のみで取引を進めた場合、後になって「そのような合意はしていない」という主張をされても、反証が困難になってしまいます。また、契約書を作成せずに取引を開始してしまうと、取引条件が不明確なまま取引が継続することになり、後々のトラブルの原因となりかねません。
さらに、契約書の作成が不十分な場合、以下のようなリスクも考えられます。

  • 重要な条項の欠落により、予期せぬ損害が発生する
  • 条項の解釈に争いが生じ、取引の継続に支障をきたす
  • 訴訟になった場合に、自社に有利な主張を立証することが困難になる

そのため、契約書の作成は、単なる形式的な手続きではなく、企業を守るための重要な経営判断の一つとして捉える必要があります。契約書の作成には一定の時間と費用がかかりますが、それ以上に大きなリスクを回避するための投資として考えることが重要です。

企業間で締結する主な契約書の種類

企業間の取引では、様々な種類の契約書が使用されます。それぞれの契約書には固有の特徴や重要な条項があり、取引の目的や内容に応じて適切な契約書を選択することが重要です。また、複数の契約書を組み合わせて使用することで、より確実な法的保護を得ることができます。以下では、企業活動でよく使用される主な契約書について解説します。

取引基本契約書

取引基本契約書は、継続的な取引関係を前提として、取引の基本的なルールを定める契約書です。たとえば、納品や検収の方法、支払条件、品質保証、製造物責任、知的財産権の取扱いなどの基本的な事項を規定します。個別の取引については、注文書や発注書などで対応することで、その都度契約書を作成する手間を省くことができます。そのため、継続的な取引関係を構築する際の基礎となる重要な契約書といえます。

なお、取引基本契約書は、「売買基本契約書」、「業務委託基本契約書」、「製造委託基本契約書」など、取引の性質に応じて異なる名称が使用されますが、基本的な機能は同じです。

売買契約書

売買契約書は、物品の売買に関する契約書です。売買の目的物、代金額、支払方法、納期、引渡方法、保証条項などを具体的に定めます。特に、高額な機械設備や、特注品の売買では、詳細な契約書の作成が重要です。また、売主の契約不適合責任(瑕疵担保責任)や、知的財産権の保証なども重要な条項となります。なお、2020年4月に施行された改正民法で、「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に変更となったことで、「特定物・不特定物の区別の排除」「買主の救済手段の拡大」「契約解除・損賠賠償請求の範囲の変更」「期間制限の見直し」などの変更がされており、この点にも注意が必要です。

業務委託契約書

業務委託契約書は、特定の業務の遂行を他社に委託する際に使用する契約書です。委託する業務の内容、委託料、納期、成果物の取扱い、再委託の可否などを規定します。特に重要なのは、業務の完了基準や検収方法を明確にすることです。また、委託先の従業員による情報漏洩を防ぐための秘密保持条項や、成果物の著作権の帰属を定める知的財産権条項なども必要不可欠です。

請負契約書

請負契約書は、特定の仕事の完成を約束する契約書です。建設工事や、システム開発などで使用されます。業務委託契約との大きな違いは、請負では「仕事の完成」に対して報酬が支払われるのに対し、業務委託では「業務の遂行」自体に対して報酬が支払われる点です。請負契約書では、仕事の具体的内容、報酬額、支払条件、完成時期、検収方法、契約不適合責任などを定めます。

賃貸借契約書

賃貸借契約書は、物件(建物、設備、機械など)を賃借する際に使用する契約書です。賃料、賃貸期間、使用目的、保証金、原状回復義務、修繕費用の負担などを定めます。特に、契約終了時の原状回復義務の範囲や、賃借物件の改修・改造の可否については、詳細に定めておくことが重要です。また、地震などの天災時の対応についても規定しておくことが望ましいでしょう。

秘密保持契約書

秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)は、取引先との間で秘密情報を開示する際に使用する契約書です。秘密情報の定義、使用目的、秘密保持期間、情報管理方法、返還義務、目的外の使用・第三者への開示の禁止、などを定めます。近年では、営業秘密や技術情報の漏洩リスクが高まっているため、秘密保持契約の重要性が増しています。特に、新規取引を検討する段階や、共同開発を行う際には、事前に締結することが推奨されます。

ライセンス契約書(使用許諾契約書)

ライセンス契約書は、特許権、商標権、著作権などの知的財産権の使用を許諾する際に使用する契約書です。使用許諾の範囲、ライセンス料、使用期間、改良技術の取扱い、サブライセンスの可否などを定めます。特に、独占的ライセンスか非独占的ライセンスか、地域的な制限の有無、技術の改良や派生物の権利帰属などについて、明確に規定することが重要です。

契約書の作成手順

契約書の作成は、企業間の権利義務関係を明確にする重要な業務です。しかしながら、多くの経営者の方々は「どのような手順で進めれば良いのかわからない」という悩みを抱えています。そこで、契約書作成の基本的な手順について、具体的に解説していきます。

ステップ1:契約の目的と内容を明確にして、契約の法的性質を把握する

契約書を作成する際、まずは、契約の目的と内容を明確にし、契約の法的性質(契約内容の法的な評価)を把握しなければなりません。なぜなら、契約の目的や内容によって、適用される法律や必要な条項が大きく異なってくるためです。たとえば、お金を貸すなら金銭消費貸借契約書、建物の建築を依頼するなら請負契約書、物の売り買いなら売買契約書、秘密を守るための契約なら秘密保持契約書となります。また、近年増加しているソフトウェア開発では外部委託することも多いですが、「業務委託契約」と「請負契約」のどちらを選択するかで法的効果が全く異なってきます。このように、契約の法的性質を正しく理解することで、適切な契約書の作成が可能となります。

ステップ2:契約条件の交渉をして合意を得る

契約書の作成前に、取引の具体的な条件について相手方と交渉を行い、合意を得ることが重要です。主な交渉項目としては、契約期間、取引価格、支払条件、納期、品質基準、保証内容、リスク分担などが挙げられます。交渉の際には、自社の要望を一方的に主張するのではなく、相手方の立場も考慮しながら、Win-Winの関係を構築することを意識しましょう。また、交渉経過を記録として残しておくことで、後日の契約書作成や解釈の参考となります。

ステップ3:契約書のベースを作成する(契約書のドラフト作成)

契約条件の合意が得られたら、契約書のドラフト(草案)を作成します。ドラフト作成者は当事者間の協議で決定しますが、自社で作成することで、自社に有利な文言を盛り込みやすくなります。ドラフトの作成では、前述の契約の法的性質に応じた必要条項を漏れなく記載することが重要です。なお、既存の契約書やテンプレートを参考にする場合も、個別の事情を十分に反映させることを忘れないようにしましょう。

ステップ4:契約内容のチェック(レビュー)・修正

作成したドラフトは、相手方に送付して内容の確認を依頼します(相手方が作成した場合には、ドラフトが送られてきます。)。この段階では、当初の合意内容と相違がないか、必要な条項が漏れていないか、自社に不利な条項がないかなど、細かいチェックが必要です。特に、以下の点には注意が必要です。

  • 契約当事者の表示(商号、所在地、代表者名)に誤りがないか
  • 契約期間や契約金額などの重要な条件が明確に記載されているか
  • 責任の所在や範囲が適切に規定されているか
  • 解除条項や損害賠償条項が適切に設定されているか

相手方から修正要求があった場合は、その内容を精査し、必要に応じて協議を行います。このプロセスを通じて、双方が納得できる内容に調整していきます。

ステップ5:契約書の調印・締結・保管

最終的な契約内容について双方の合意が得られたら、契約書の調印を行います。実印である必要はないのですが、後々に証明力を高めるために、通常は実印を使います。両者が署名(記名)押印をして日付を入れると、契約書が完成します。調印の際は以下の点に注意が必要です。

  • 契約書が複数ページある場合は、契印を押印する
  • 契約書は原則として当事者の数だけ作成し、それぞれが保管する
  • 添付書類や別紙がある場合は、漏れなく添付されているか確認する

また、契約書の保管においては、原本を安全な場所で管理し、電子データとしてもバックアップを保存することをおすすめします。契約書は、後日のトラブル発生時に有効な証拠となりますので、大切に保管しておきましょう。

契約書作成の際の注意点

契約書の作成は、企業間の権利義務関係を明確にするだけでなく、将来的なトラブルを未然に防ぐための重要な作業です。そのため、以下の点に特に注意を払って作成する必要があります。

曖昧な表現を避ける

契約書で最も避けるべきは曖昧な表現です。たとえば、「すみやかに」「相当の期間」「誠実に対応する」といった抽象的な表現は、解釈に幅が生じる可能性があるため、できる限り具体的な表現に置き換えることが重要です。「すみやかに」であれば「○営業日以内に」、「相当の期間」であれば「○ヶ月間」というように、具体的な数値や期限を明記しましょう。また、専門用語や業界特有の用語を使用する場合は、その定義を契約書内で明確にしておくことも重要です。このように具体的な表現を用いることで、後々の解釈の違いによるトラブルを防ぐことができます。

リスクに備えた条項を入れる

企業間の取引では、様々なリスクが想定されます。そのため、契約書には将来起こりうるリスクに備えた条項を盛り込む必要があります。具体的には、以下のような条項が重要となります。

  • 損害賠償条項
    債務不履行や契約違反が発生した場合の賠償責任の範囲や上限を定めます。
  • 解除条項
    契約を解除できる事由と手続きを明確に規定します。
  • 不可抗力条項
    天災や法令改正など、当事者の責めに帰さない事由による免責を定めます。
  • 秘密保持条項
    取引を通じて知り得た機密情報の取扱いについて定めます。
  • 反社会的勢力排除条項
    反社会的勢力との関係を遮断するための条項を設けます。

特に近年では、新型コロナウイルス感染症の流行により、不可抗力条項の重要性が再認識されています。また、サイバーセキュリティリスクの増大に伴い、情報セキュリティに関する条項の重要性も高まっています。

法律の強行規定に違反していないか確認する

契約自由の原則により、当事者間で自由に契約内容を決めることができますが、法律には必ず守らなければならない規定(強行規定)が存在します。たとえば、独占禁止法、下請法、消費者契約法などには、取引における禁止事項が定められています。また、民法や商法にも強行規定が存在し、これらに違反する契約条項は無効となります。
特に注意が必要な強行規定の例として、

  • 下請法における支払遅延の禁止
  • 独占禁止法における不公正な取引方法の禁止
  • 消費者契約法における不当条項の無効
  • 民法における暴利行為の禁止

などが挙げられます。これらの規定に違反していないかを確認することは、契約の有効性を確保するために極めて重要です。場合によっては、業界特有の規制や海外法令の遵守も必要となるため、専門家への相談を検討することをおすすめします。

弁護士に契約書の作成・チェックを依頼するメリット

企業経営において、契約書の作成は重要な業務である一方、適切な契約書を作成するためには、法的知識と実務経験が必要不可欠です。そのため、弁護士に契約書の作成やチェックを依頼することで、以下のようなメリットを得ることができます。

法的リスクの事前回避

弁護士は、豊富な法律知識と実務経験を有しているため、契約書の内容に潜む法的リスクを事前に発見し、回避することができます。たとえば、民法、商法、独占禁止法、下請法など、関連する法律との整合性をチェックし、法律違反のリスクを未然に防ぐことができます。また、判例や裁判例を踏まえた条項の作成により、将来の紛争リスクを最小限に抑えることも可能です。さらに、業界特有の規制や海外取引における法的リスクについても、適切なアドバイスを受けることができます。

交渉における専門的サポート

契約書の作成過程では、相手方との交渉が必要不可欠です。弁護士は、法的な観点から交渉をサポートし、自社の利益を適切に守ることができます。たとえば、相手方から提示された契約書案の問題点を指摘し、より有利な条件を引き出すための提案を行うことができます。また、交渉が膠着した際には、法的根拠を示しながら説得力のある主張を行うことで、スムーズな合意形成をサポートします。

契約書作成にかかる負担を軽減

契約書の作成には、多くの時間と労力が必要です。弁護士に依頼することで、経営者や社内担当者の負担を大幅に軽減することができます。特に、契約書のドラフト作成や修正作業、法的チェックなどの専門的な業務を弁護士に任せることで、経営者は本来の経営業務に注力することができます。また、弁護士は豊富な契約書作成の経験を有しているため、効率的かつ迅速な対応が可能です。

トラブル発生時の対応

万が一、契約に関するトラブルが発生した場合でも、契約書の作成段階から弁護士が関与していることで、より迅速かつ適切な対応が可能となります。弁護士は、契約書の作成経緯や意図を熟知しているため、トラブルの解決に向けた的確なアドバイスを提供できます。また、相手方との交渉や、必要に応じた法的手続きの検討なども、スムーズに行うことができます。

さらに、訴訟に発展した場合でも、弁護士が契約内容の適法性や契約違反の有無を精査し、訴訟戦略を立案します。具体的には、証拠の整理、主張の構築、裁判手続きのサポートを行い、企業の利益を最大限に守るよう努めます。

このように、トラブル発生時のリスクマネジメントの観点からも、弁護士への依頼は有効な選択肢といえます。

まとめ:契約書作成は、弁護士にご相談ください

企業間の契約書作成は、事業の継続的な発展のために極めて重要な業務です。適切な契約書を作成することで、取引の安定性を確保し、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。しかしながら、法的知識や実務経験が不足している場合、思わぬリスクを抱えることになりかねません。特に、自社で契約書を作成する際にテンプレート(書式)を使う場合は、書式の契約書は個別の事情を反映していないことがあるので、後に思ったような効果を発揮できないことがあり、裁判になったときに、思わぬ解釈をされて不利益を受ける恐れがあり危険です。

当事務所では、長年の経験と専門知識を活かし、企業の皆様の契約書作成を全面的にサポートしています。契約書の作成やチェックはもちろん、相手方との交渉や締結後のフォローアップまで、一貫したサービスを提供しております。特に、経営者の皆様の「安心」と「信頼」を第一に考え、きめ細かな対応を心がけています。
契約書に関するお悩みやご不安な点がございましたら、お気軽に当事務所までご相談ください。企業の皆様の大切な取引を法的側面からしっかりとサポートいたします。
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