医療広告規制の基本|病院・クリニック必見!
医療広告規制とは?基本をわかりやすく解説
医療機関の広告活動は、医療法や『医療広告ガイドライン』によって厳しく規制されています。なぜなら、医療サービスは人々の生命や健康に直接関わるため、誤解を招く広告や過度な期待を抱かせる表現は、患者様に不利益をもたらす可能性があるためです。
医療機関の方々にとって、適切な広告活動は新規患者の獲得や医療サービスの認知度向上のために重要です。しかし、その一方で規制に違反してしまうと、行政指導(医療法第6条の8)や開設の許可の取り消し(医療法第29条第1項第4号・厚生労働省医政局総務課『医療広告ガイドラインに基づく 標準的な期限も含めた指導・措置等の実施手順書』(ステップ3))などの処分を受ける可能性があります。そのため、医療機関の経営者の皆様は、医療法における広告規制について正しく理解し、適切な広告活動を行うことが求められています。
医療広告規制の目的と概要
医療法における広告規制の主な目的として、①患者様等の利用者の保護、②適切な医療サービスの選択支援があります。そのため、医療法では、医療機関が行う広告について、虚偽または誇大な広告を禁止するとともに、広告可能な事項を限定的に定めています。この規制は、病院やクリニックだけでなく、歯科医院や助産所なども対象となります。
また、インターネットの普及に伴い、2018年6月には『医療広告ガイドライン』が策定され、ウェブサイトやSNSなどのインターネット上の広告についても規制の対象となりました。このガイドラインでは、従来の広告規制に加えて、ウェブサイト等での情報提供における留意事項が詳細に示されています。
また、「医療広告ガイドライン」は年に数回のペースで改訂等がされています。これは、制限だけでなく、広告可能な範囲が広がる場合もあるので、最新の情報を確認しておくことが望ましいです。例えば、令和6年9月13日には、「歯科医師の専門性資格として『矯正歯科』『歯科保存』」が広告可能とされました。
規制の対象となる広告の範囲
医療広告規制の対象となる「広告」とは、患者様を誘引する意図があり、医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能な内容を含むものを指します。
具体的には、以下のようなものが広告として規制の対象となります。
- 看板、ポスター、チラシなどの従来型の広告媒体
- 新聞、雑誌、テレビ、ラジオなどのメディア広告
- インターネット上のバナー広告やリスティング広告
- 医療機関のウェブサイトやSNSでの投稿
- メールマガジンや電子メールでの案内
ただし、学術論文や学術発表、医療機関の職員募集に関する広告、医療機関内で配布するパンフレットなどは、広告規制の対象外とされています。
医療機関が注意すべき広告禁止事項
医療法における広告規制において、特に注意が必要なのが広告禁止事項です。これらに違反した場合、行政指導の対象となるだけでなく、医療機関の信頼性にも関わる重大な問題となる可能性があります。
虚偽・誇大な広告表現
虚偽広告とは、事実と異なる情報や、根拠のない情報を掲載することを、誇大広告とは、事実を誇張して表現することを言います。
例えば、「絶対に治る」「最新の治療法でどんな病気も克服できる」といった表現は、虚偽または誇大広告とみなされる可能性が高いです。また、実際には行っていない治療法を掲載することも虚偽広告に該当します。また、「日本一の技術」「世界最高水準の設備」といった表現は、客観的な根拠がない場合、誇大広告とみなされる可能性があります。
このような表現は、患者様の治療選択に重大な影響を与える恐れがあるため、医療法によって厳しく規制されています。
比較優良性を示す表現
他の医療機関と比較して自院を優位に見せる表現も禁止されています。れは、公正な競争を妨げ、患者様の選択肢を狭める可能性があるためです。
例えば、「最高」「最先端」「最新」などの最上級を示す表現や「当院だけ」「県内初」などの唯一性を強調する表現、「△△クリニックよりも安い」のような他院との比較による優位性を主張する表現などが該当します。また、『医療広告ガイドライン』では「著名人も当院で治療を受けております。」といった著名人との関連性を強調する表現も比較優良広告として取り扱うとしています。
患者様の体験談掲載における規制
患者様の体験談は、他の患者様にとって貴重な情報源となりますが、客観的な根拠に乏しいため、誤解を招きやすい情報とされており、広告に使用する際は厳しい制限が設けられています。ただし、個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するクチコミサイト等への体験談の掲載については、広告料等を支払って掲載を依頼しているなどの事情がなければ、広告に該当しないとされています。
なお、この広告に該当しないとされる体験談についても、自院のHPなどに引用することは広告規制の対象となっています。
その他禁止されている広告
上記以外にも、以下のような表現や内容は広告として禁止されています。
- 費用の安さを強調する表現
- 提供する医療の内容と直接関係のない事項
- 医療従事者の略歴であって、医療に関する専門的な知識や技能に関係のない事項
- 品位を損ねる内容や、他の医療機関を誹謗中傷する表現
これらの規制は、医療の質や安全性を確保し、患者様が適切な医療機関を選択できるようにするために設けられています。
医療機関が活用できる適切な広告表現
医療広告規制は確かに厳しいものですが、適切な方法で情報を発信することは可能です。ここでは、医療機関が活用できる広告表現について解説します。
基本的な広告可能事項
医療法で定められている広告可能事項には、以下のようなものがあります(医療法第6条の5第3項)。
- 医療機関の名称、所在地、電話番号
- 診療科名(医療法で定められたものに限る)
- 医師または歯科医師である旨
- 診療日、診療時間、予約による診療の実施の有無
- 医療保険や公費負担等の対応の有無
- 提供される医療の内容(医療法で認められたものに限る)
- 入院設備の有無、病床数
- 医療従事者の氏名、年齢、性別、役職、略歴
- 医療機関の施設、設備や機器の写真や映像、導入台数または導入日等
これらの情報は、患者様が医療機関を選ぶ上で必要な情報であり、事実に基づいて適切に提供することで、患者様の利便性向上に繋がります。
『医療広告ガイドライン』について
厚生労働省が公表している『医療広告ガイドライン』には、上述した広告表現において遵守すべきことについてより詳細に記載されているため、こちらも確認していただくことが望ましいです。最初の方でも述べましたがガイドラインは定期的に改訂等されているため、確認する際は厚生労働省のHPへアクセスし最新のガイドラインを見るようにしましょう。このガイドラインを遵守することで、法令違反のリスクを減らすことができます。
医療広告規制の違反事例【5選】
医療広告規制に違反してしまうケースは、意図せず発生することも少なくありません。ここでは、『医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第4版)』で紹介されている違反事例から、特に意図せず起こしてしまいそうな5つを選んで紹介します。
データの根拠を明確にしない調査結果の掲載(虚偽広告)
「治療成功率97.5%以上」などの数値の根拠を明示しない調査結果や統計データを広告に使用することは、虚偽広告として取り扱われます。そして、満足度調査については、調査を実施していること等については広告可能とされていますが、「患者様満足度99%」といった調査結果については広告が認められていないので注意してください(『医療広告ガイドライン(令和6年9月13日改正)』の「第4 広告可能な事項について」「4 広告可能な事項(法6条の5第3項)の具体的な内容」「(14)」「ケ」より)。
加工・修正した術前術後(ビフォーアフター)の写真等の掲載(虚偽広告)
写真加工ソフトで修正を加えた術前術後(ビフォーアフター)の写真の掲載は、実際の治療効果について誤解を与える可能性があるため虚偽広告として取り扱われます。
術前術後(ビフォーアフター)の写真の掲載(省令禁止事項)
加工ソフトを使用していない術前術後(ビフォーアフター)の写真の掲載を掲載する場合も、治療内容や費用、リスクなど詳細な説明を付ける等いくつかの要件を満たさないと医療広告として認められません。この要件は、自由診療かどうかによっても変わるので、自院の運営内容と照らし合わせて要件を確認してください。
医療広告ガイドラインを遵守している旨の強調(誇大広告)
「当院は医療広告ガイドラインを完全準拠しています」「医療広告の規制を完全に遵守した診療所です」といった表現を使用する広告も禁止されています。これは、法令等の遵守は当然のことであり、それを特別な特徴として強調することは誇大広告とみなされるためです。
また、「厚生労働省が定めた医療広告ガイドラインの遵守状況を確認する審査制度に基づき、指定審査機関から認定証を取得」といった制度として行政機関が認証を与えていると誤認させるような表現も認められていません。
体験談の掲載(省令禁止事項)
「医療機関が注意すべき広告禁止事項」でも解説しましたが、「手術後の痛みが全くなく、翌日から普通に生活できました」「他院では治らなかった症状が完治しました」といった患者様の体験談を掲載することは、省令で明確に禁止されています。
それにもかかわらず、『医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第4版)』では個別具体例が以下の5種類が紹介されており、医療広告規制に違反の代表例の1つとなっています。
- 口コミサイトからの転載
- 医療機関のスタッフによる記載
- 口コミサイトの体験談の内容を有利になるように編集依頼をする
ただし、当該体験談が名誉毀損等の不法行為に当たる場合は、医療機関による削除等の依頼は医療法違反には当たらないとされています。 - 患者の直筆アンケートをPDF化等したものの掲載
- 患者の主訴として記載された体験談の掲載
医師による症例紹介の中に、「●●さんが『痛みがなくなった』とお話されるほどに改善しました。」のような患者様の主観による体験談が入っている等。
医療広告に関して弁護士への相談するメリット
医療広告規制は複雑で解釈が難しい場合も多く、違反してしまうリスクは常に存在します。そのため、専門家である弁護士への相談は、安全な広告活動を行う上で大きな助けとなります。
事前確認による違反リスクの回避
弁護士に相談することで、以下のようなリスクへの対策が可能です。
- 意図せぬ法令違反の防止
- グレーゾーンにある表現の適切な判断
- 新規広告施策の法的リスク評価
- 既存の広告内容の見直しと改善点の発見
特に、新しい広告手法を導入する際や、大規模な広告キャンペーンを実施する前の確認は重要です。問題が発生してからの対応では、多大なコストや信用の失墜につながる可能性があります。
適切な広告表現のアドバイス
法令遵守を前提としながらも、効果的な広告展開のためのアドバイスを提供することができます。
- 規制の範囲内で可能な表現方法の提案
- 医療広告ガイドラインに準拠した情報提供の方法
- トラブル発生時の適切な対応方法の助言
また、定期的な広告内容のチェックを依頼することで、継続的なリスク管理も可能となります。
まとめ
医療広告は、患者様の適切な医療機関選択を支援し、利用者を保護するために厳格な規制が設けられています。しかし、その複雑さから誤った表現をしてしまうリスクも存在します。広告規制に違反すると、行政指導や開設許可の取り消しなどの重大な処分を受ける可能性があります。そのため、医療機関の経営者の皆様は、医療法における広告規制を正しく理解し、コンプライアンスを徹底することが重要です。医療広告規制の解釈や具体的な広告表現について不安な点がございましたら、弊所では医療機関の広告規制に関する相談を承っております。医療広告規制でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。