社員の不適切なネット書き込みと企業の対処法

1.はじめに:社員のネット書き込みが企業にもたらすリスク

インターネットの普及に伴い、個人が気軽に情報を発信できる時代となりました。しかしながら、この便利さの裏側には大きなリスクが潜んでいます。特に、企業にとって従業員によるネット上の不適切な書き込みは、深刻な問題となる可能性があります。

 

従業員が会社や職場に関する否定的な情報をネット上に書き込むことで、企業イメージが大きく損なわれる恐れがあります。さらに、こうした書き込みは瞬く間に拡散し、長期にわたって企業の評判に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、経営者や人事担当者は、このような事態に適切に対応できるよう、準備しておくことが重要です。

 

本コラムでは、問題社員のネット書き込みの具体例や、企業が取るべき法的対応、さらには予防策について詳しく解説していきます。これらの知識を身につけることで、企業価値を守り、健全な職場環境を維持するための一助となれば幸いです。

 

2.問題社員によるネット書き込みの具体例

2.1.Googleマップへの書き込み

Googleマップは、世界中で広く利用されている地図サービスです。このサービスでは、ユーザーが店舗や企業に対してレビューを投稿することができます。しかし、この機能が問題社員によって悪用されるケースが増えています。

 

例えば、不満を抱えた従業員が匿名で自社に対する否定的なレビューを投稿し、「この会社はブラック企業だ」「従業員の待遇が悪い」といった内容を書き込むことがあります。こうした書き込みは、potential customers(潜在的な顧客)の目に触れる可能性が高く、企業イメージを大きく損なう恐れがあります。

 

また、退職した元従業員が、退職後の恨みから意図的に虚偽の情報を書き込むケースもあります。これらの書き込みは、企業の評判を傷つけるだけでなく、新規顧客の獲得や優秀な人材の採用にも悪影響を及ぼす恐れがあります。

 

2.2.転職サイトへの書き込み

転職サイトは、就職活動中の人々が企業情報を得るための重要な情報源となっています。多くの転職サイトでは、現職または元従業員が匿名で企業の評価を投稿できる仕組みがあります。しかし、この仕組みを悪用し、問題社員が不適切な内容を書き込むケースが後を絶ちません。

 

例えば、「残業代が支払われていない」「パワーハラスメントが横行している」といった内容の書き込みがなされることがあります。たとえこれらの情報が事実でない場合でも、潜在的な応募者に対して強い印象を与え、優秀な人材の採用に支障をきたす恐れがあります。

 

さらに、こうした書き込みは、現在働いている従業員のモチベーションにも悪影響を及ぼす恐れもあります。自分の勤務先が否定的に評価されている状況を目にすることで、従業員の帰属意識が低下し、結果として生産性の低下や離職率の上昇につながる恐れがあります。

 

2.3.掲示板への書き込み

インターネット上には、様々な話題について自由に議論できる掲示板が数多く存在します。これらの掲示板は、匿名性が高いため、問題社員が企業の内部情報や批判的な意見を書き込むプラットフォームとして悪用されることがあります。

 

例えば、「2ch」(現在の5ch)や「爆サイ」といった匿名掲示板に、会社の機密情報や経営陣の噂話、同僚の個人情報などが書き込まれるケースがあります。こうした書き込みは、企業の信頼性を著しく損なうだけでなく、場合によっては法的問題に発展する可能性もあります。

 

また、SNS上での不適切な投稿も見過ごせません。FacebookX(旧:Twitter)、Instagramなどのプラットフォームで、従業員が会社や顧客に関する不適切な情報を共有してしまうケースも増えています。これらのSNSは拡散力が強いため、一度投稿された情報は瞬く間に広まり、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。

 

3.企業が取るべき法的対応

3.1.削除請求

不適切な書き込みを発見した場合、企業が最初に検討するべき対応は、その書き込みの削除を求めること(削除請求)です。

 

削除請求の手順は以下の通りです。

 

① 書き込みの内容を確認し、証拠として保存する。
② 書き込みがされたサイトの運営者に連絡し、削除を要請する。
③ 運営者が削除に応じない場合、法的手続きを検討する。

 

ただし、削除請求には注意点があります。例えば、事実に基づいた批判的な意見の場合、表現の自由との兼ね合いで削除が認められないこともあります。そのため、①の段階から弁護士に相談しながら慎重に対応を進めることをお勧めします。

 

 

3.2.発信者情報開示請求

匿名の書き込みの場合、誰が書き込んだのかを特定するために「発信者情報開示請求」を行うことができます。これは、プロバイダ責任制限法に基づいて、サイト運営者やプロバイダに対して書き込み者の情報開示を求める手続きです。

 

発信者情報開示請求の流れは以下の通りです。

 

① 書き込みの違法性を確認する。
② サイト運営者やプロバイダに対して、書き込み者の情報開示を請求する。
③ 開示された情報をもとに、書き込み者に対する法的措置を検討する。

 

ただし、この請求が認められるためには、書き込みが名誉毀損やプライバシー侵害など、権利侵害に該当することを示す必要があります。また、開示請求のは任意に開示されることは滅多に無く、多くは裁判所を通じて行う必要があるため、時間とコストがかかることを念頭に置く必要があります。

 

また、アクセスプロバイダによってはログ保存期間が短いことがあるという点も注意しなければなりません。特に、アカウントが必要ない匿名掲示板ではログに保存されているIPアドレス(インターネットでデータの送信元や送信先を識別するための番号)から書き込み者を特定することになります。そのため、書き込みをされてから1ヶ月以上経っているものに対しての開示請求は難しくなっています。

 

3.3.問題社員への削除交渉

書き込みを行った社員が特定できた場合、直接その社員と削除交渉を行うことも一つの選択肢です。しかし、この対応には慎重を期す必要があります。

 

削除交渉の際の注意点は以下の通りです。

 

① 冷静に対話を行い、威圧的な態度を取らない。
② 書き込みが会社にどのような影響を与えるか説明する。
③ 就業規則や法的責任について明確に伝える。
④ 削除に応じた場合の対応(例:懲戒処分の軽減)を検討する。

 

ただし、こうした交渉は労使関係に影響を与える可能性があるため、人事部門や顧問弁護士と相談しながら進めることが重要です。また、交渉の過程で得た情報や合意内容は、必ず文書化して記録に残すようにしましょう。

 

4.社内での対策と予防

4.1.就業規則の確認と改定

不適切なネット書き込みを防ぐためには、まず就業規則を確認し、必要に応じて改定することが重要です。特に、SNSやインターネットの利用に関する規定を明確に定めておくことが求められます。

 

就業規則に盛り込むべき主な項目は以下の通りです。

 

① 会社や顧客に関する情報のSNSへの投稿禁止
② 会社の評判を損なう投稿の禁止
③ 業務時間中のSNS利用制限
④ 違反した場合の懲戒処分の内容

 

これらの規定を設けることで、従業員に対して明確なガイドラインを示すことができます。ただし、就業規則の改定にあたっては、労働基準法に基づいた適切な手続きを踏む必要があります。具体的には、従業員の過半数代表者の意見を聴取し、労働基準監督署への届出を行うことが求められます。

 

弁護士等の専門家に依頼することで、追加する項目だけでなく、これまでの就業規則の見直しも可能になります。

 

4.2.懲戒処分の検討と実施

就業規則に違反して不適切な書き込みを行った従業員に対しては、懲戒処分を検討する必要があります。ただし、懲戒処分を行う際には、以下の点に注意が必要です。

 

① 処分の根拠となる就業規則の規定が明確であること
② 違反行為の内容と処分の程度が適切であること

 

懲戒処分の種類としては、戒告(口頭注意)、譴責(始末書の提出)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあります。処分の程度は、書き込みの内容や影響の大きさ、従業員の反省の態度などを総合的に考慮して決定する必要があります。

 

また、懲戒処分を行う際は、事前に当事者に弁明の機会を与え、処分の理由を明確に説明することが重要です。これにより、処分の正当性を確保し、後のトラブルを防ぐことができます。

 

4.3.社員教育とコンプライアンス強化

不適切なネット書き込みを未然に防ぐためには、継続的な社員教育とコンプライアンスの強化が欠かせません。以下のような取り組みを行うことで、従業員の意識向上を図ることができます。

 

① SNSリテラシー研修の実施
(ア)SNSの特性や影響力について理解を深める
(イ)具体的な事例を用いて、不適切な投稿のリスクを説明する

 

② コンプライアンス研修の定期的な実施
(ア)会社の評判を守ることの重要性を伝える
(イ)情報セキュリティの基本を学ぶ

 

③ 社内コミュニケーションの活性化
(ア)従業員の不満や意見を吸い上げる仕組みを作る
(イ)定期的な面談や匿名でのアンケート実施

 

これらの取り組みを通じて、従業員一人ひとりがSNSの利用や情報発信に対する責任感を持つよう促すことが大切です。当事務所では社内研修講師の担当、当事務所主催のセミナーの無料案内などのサービスも実施していますのでぜひご検討ください。

 

5.まとめ【適切な対応で企業価値を守る】

本コラムでは、社員による不適切なネット書き込みの問題と、企業が取るべき対応について詳しく解説してきました。この問題は、企業イメージや信頼性に大きな影響を与える可能性があるため、経営者や人事担当者は常に注意を払う必要があります。

 

適切な対応の要点を以下にまとめます。

 

① 問題のある書き込みを早期に発見し、迅速に対応する
② 法的手段(削除請求、発信者情報開示請求)を適切に活用する
③ 就業規則を整備し、明確なガイドラインを設ける
④ 違反者に対しては適切な懲戒処分を検討する
⑤ 継続的な社員教育とコンプライアンス強化に取り組む

 

これらの対策を総合的に実施することで、不適切な書き込みのリスクを低減し、企業価値を守ることができます。しかしながら、完全に問題を防ぐことは困難であり、常に新たな課題が発生する可能性があります。

 

そのため、経営者や人事担当者は、インターネットやSNSの動向に常に注目し、必要に応じて対策を更新していくことが重要です。また、従業員との信頼関係を築き、オープンなコミュニケーションを心がけることで、社内の不満が外部に漏れ出すリスクを軽減することができるでしょう。

 

デジタル時代において、企業の評判管理はますます重要になっています。不適切な書き込みへの対応は、単なる危機管理だけでなく、企業文化の醸成や従業員満足度の向上にもつながる重要な取り組みです。この問題に真摯に向き合い、適切に対応することで、長期的な企業価値の向上につながるはずです。

 

最後に、ネット上の書き込みに関する問題は複雑で、法的にも専門的な知識が必要となる場合が多々あります。そのため、問題が発生した際には、早い段階で専門家に相談することをお勧めします。

 

社員の不適切なネット書き込みでお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますので、お気軽に当事務所までご相談ください。経験豊富な弁護士が、御社の状況に応じた最適な対応策をご提案いたします。

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