残業代未払いの罰則とは?企業が取るべき対応策

近年、働き方改革の推進により、労働時間管理や残業代の支払いに対する社会的関心が高まっています。しかし、依然として残業代の未払い問題は多くの企業で課題となっています。本コラムでは、残業代未払いによって企業が直面する可能性のある罰則と、その対応策について詳しく解説します。

残業代未払いで会社が受ける可能性のある罰則とは?

残業代の未払いは、労働基準法違反となる重大な問題です。企業は法的リスクだけでなく、社会的信用の低下など、様々な面でのリスクに直面する可能性があります。ここでは、具体的にどのような罰則やペナルティ、法的リスクがあるのかを見ていきましょう。

労働基準法違反による罰則

労働基準法第37条では、時間外労働に対して、通常の賃金の25%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられています。この規定に違反した場合、以下のような罰則やペナルティが科される可能性があります。

  1. 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(労働基準法第119条)
  2. 是正勧告や改善命令(労働基準法第101条、104条の2等)
  3. 企業名の公表(通達:「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」)
  4. 労働基準監督署による立ち入り調査(労働基準法第101条)

特に悪質な場合や、是正勧告に従わない場合は、より厳しい処分が行われる可能性があります。これらの罰則やペナルティにより、企業運営に大きな支障が生じる危険性があります。

なお、202561日より、第119条の罰則における「懲役」が「拘禁刑」に改正されることが予定されています。

民事訴訟のリスクと賠償金

労働基準法違反による罰則だけでなく、従業員から民事訴訟を起こされるリスクも考慮しなければなりません。訴訟となった場合、未払いの残業代に加え、以下についても支払いが命じられる可能性があります。

  1. 遅延損害金
  2. 付加金(未払い賃金と同額まで)(労働基準法第114条)
  3. 弁護士費用の一部(損害賠償額の一部として認められる場合があります)

企業はこうした支払いに応じる義務があり、結果として多額の賠償金を支払うことになるリスクがあります。

さらに、集団訴訟に発展した場合、賠償金額が膨大になる可能性があります。また、訴訟に伴う時間的・金銭的コストや、企業イメージの低下なども考慮する必要があります。

従業員から未払い残業代を請求を放置した際のリスク

残業代の未払い問題を放置することは、さらなる問題を引き起こす可能性があります。ここでは、請求を放置した際に企業が直面する可能性のあるリスクについて説明します。

従業員の信頼低下と人材流出

残業代の未払い問題を適切に対処しないと、従業員の会社に対する信頼が大きく損なわれる可能性があります。信頼の低下は以下のような問題につながる可能性があります。

  1. モチベーションの低下と生産性の減少
  2. 優秀な人材の流出
  3. 新規採用の困難化
  4. 職場の雰囲気の悪化

特に、人手不足が問題となる現在の日本の労働市場において、人材の流出は企業にとって大きなダメージとなります。

風評被害と企業イメージの悪化

残業代未払い問題が公になった場合、企業の評判にも深刻な影響を及ぼします。SNSの普及により、企業の労働環境が悪いというイメージが広がると、以下のような影響を及ぼす可能性があります。

  1. 顧客離れと売上の減少
  2. 取引先からの信用低下
  3. 株価への悪影響
  4. 採用活動への悪影響

一度失った信頼を取り戻すには、多大な時間と労力が必要となります。そのため、早期に適切な対応をすることが極めて重要です。

未払い残業代を請求された際に確認すべきポイント

従業員から未払い残業代の請求を受けた場合、まず冷静に状況を分析し、適切な対応を取ることが重要です。ここでは、確認すべき主要なポイントについて解説します。

労働時間の正確な把握と記録

未払い残業代の問題に対処する際、まずは従業員の労働時間の正確な記録を確認することが重要です。タイムカードやICカード等による出退勤記録を用いて、実際の労働時間と賃金が適切に計算されているかを再確認する必要があります。

また、必要に応じて、残業申請書や業務日報、カラ残業が疑われる従業員の場合は防犯カメラ等の映像記録も確認しておくと良いでしょう。

これらの記録を照合し、実際の労働時間を正確に把握することが重要です。また、「みなし労働時間制」や「裁量労働制」が適用されている従業員については、その適用が適切かどうかも確認する必要があります。

残業代計算方法の確認

残業代の計算には正しい方法が必要です。計算ミスがある場合、早急に修正する必要があります。

残業代の再計算をする際は、以下の点に注意しましょう。

  1. 基本給与や諸手当の算入
  2. 割増率の適用(深夜労働、休日労働等)
  3. 固定残業代制度の適切な運用
  4. 管理監督者の範囲

特に、固定残業代制度を採用している場合は、その運用が適切であるか、法的要件を満たしているかを慎重に確認する必要があります。

時効の考慮

残業代の請求権には時効がありますが、未払い残業代がある場合、時効の確認も欠かせません。

労働基準法では、賃金請求権の消滅時効が定められています。20204月の法改正により、2020331日以前は2年、202041日以降は3年(時効等改正に伴う経過措置満了後は5年)と変更されました。

残業代等の賃金請求権の時効の起算点は、残業代の支払期日(給料日)の翌日からとなります。

ただし、従業員が未払い残業代請求(催告、裁判上の請求等)を行っている場合、時効の進行が停止(時効の完成猶予)することもあるため注意が必要です。

企業がすべき未払い残業代への対応方法

未払い残業代の問題が発覚した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。ここでは、企業がとるべき具体的な対応方法について解説します。

適切な支払い方法の確認

未払い残業代の支払い方法については、従業員との合意形成が重要です。また、以下の点に注意し、会社の資金繰りも考慮しつつ、できるだけ速やかな支払いを心がけましょう。

  1. 正確な金額の算出
  2. 支払いのタイミング(一括か分割か)
  3. 税金や社会保険料の取り扱い

証拠や記録の確保

将来的な紛争に備え、以下のような証拠や記録を適切に保管し、必要に応じて提出できる状態にしておくことが重要です。

  1. 労働時間の記録
  2. 残業代の計算根拠
  3. 従業員との話し合いの記録
  4. 支払いに関する合意書

これらの記録は、労働基準監督署の調査や訴訟の際に重要な証拠となります。デジタルデータについては、改ざんされないよう適切に管理することが求められます。

社内体制の見直し

残業代の未払い問題が発生する背景には、労務管理体制に問題があるケースが多いです。そのため、以下のような社内体制の見直しを行い、発生防止策を講じることが必要です。

  1. 労働時間管理システムの導入・改善
  2. 管理職への教育・研修
  3. 内部通報制度の整備
  4. 定期的な労務監査の実施

特に、管理職への教育は重要です。部下の労働時間を管理する管理職が、労働法の基礎知識や適切な労務管理を知っているだけでも残業代の未払問題の発生の可能性を格段に下げることができるため、定期的に研修を行うことをお勧めします。

また、相談できる上司がいなかったり、匿名の内部通報制度がないと、いきなり弁護士からの通知書や裁判上の請求で支払いを求められるリスクが高まります。相談の窓口を作ることによって問題の早期発見に繋がり、結果として法的リスクを避けることが可能になります。

法改正に備えた対応策

労働法規は頻繁に改正されるため、最新の法改正動向を常に把握し、それに応じた対応策を講じることが重要です。労働基準法や関連法規の改正が行われた際、速やかに対応できるよう、法的な知識を持つ専門家と連携しておくことが推奨されます。

例えば、以下の対応について、2010年代後半から2020年代前半にかけて法改正されましたが、対応しきれていない企業がまだまだあるように感じています。

  1. 労働時間の上限規制への対応
  2. 同一労働同一賃金への対応
  3. 有給休暇の取得義務化への対応
  4. 労働条件の明示義務の強化への対応

法改正の情報は、厚生労働省のウェブサイトなどで入手することもできますが、顧問社労士や顧問弁護士に相談し、自社の状況に応じた対応策を検討することをお勧めします。

未払い残業代の請求対応を弁護士に依頼するメリット

未払い残業代の問題は複雑で専門的な知識が必要となるため、弁護士に相談・依頼するメリットは大きいといえます。以下、具体的なメリットについて解説します。

専門的な法的対応によるリスクの回避

弁護士に依頼することで、未払い残業代に関連する法的リスクを最小限に抑えることができます。

特に、労働基準監督署への対応や、訴訟に発展しそうな案件については、早期に弁護士に相談することで、リスクを大きく軽減できる可能性があります。

適切な交渉と和解の促進

未払い残業代に関するトラブルでは、従業員との適切な交渉が求められます。弁護士が介入することで、交渉を円滑に進め、法的に適切な和解条件を提示することができます。

具体的には、弁護士にご依頼いただくことで以下のような対応を行うことができます。

  1. 従業員側との適切な交渉
  2. 和解書案の提案と作成
  3. 和解書の作成と和解交渉

特に、複雑な労働条件が絡む場合は、弁護士の介入なしでは、解決までに多くの時間と労力がかかる可能性が高くなります。

経営に集中するためのサポート

法的なトラブルへの対応を弁護士に依頼することで、経営者は本来の業務に集中できるようになります。

弁護士に依頼することで、経営者は以下のようなメリットを得ることができます。

  1. 法的問題への対応時間の削減
  2. 精神的ストレスの軽減
  3. 客観的な視点からのアドバイス
  4. 将来的なリスク管理のサポート

弁護士に依頼することで、問題が解決する前も後も、経営者は本来の業務に集中することができます。

【まとめ】未払い残業代問題の予防と対策

未払い残業代の問題は、企業にとって大きなリスクとなる可能性があります。ここまで説明してきた内容を踏まえ、以下の点に注意して予防と対策を行いましょう。

  1. 適切な労働時間管理システムの導入
  2. 定期的な労務監査の実施
  3. 管理職への教育・研修の徹底
  4. 労働関連法規の最新動向の把握
  5. 従業員とのコミュニケーションの強化
  6. 問題発生時の迅速な対応
  7. 必要に応じた専門家(弁護士・社労士)への相談

未払い残業代の問題は、単に法的リスクだけでなく、企業の信頼や従業員のモチベーションにも大きく影響します。適切な予防策を講じ、問題が発生した場合は迅速かつ適切に対応することが重要です。

労働問題は複雑で専門的な知識が必要となるため、自社だけで対応するのは難しい場合があります。そのような場合は、労働問題に精通した弁護士や社会保険労務士に相談することをお勧めします。専門家のアドバイスを受けることで、より適切な対応が可能となり、企業のリスクを最小限に抑えることができます。

未払い残業代でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。早期の対応が問題解決の鍵となります。専門家のサポートを受けながら、適切な労務管理と従業員との良好な関係構築を目指しましょう。

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