社内でセクハラが発生した際に企業がとるべき対応方法とは|予防策や注意点も解説

セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、「相手の意に反する性的な言動により、職場環境を悪化させたり、不利益を与えたりする行為」です。

セクハラはどの職場でも発生し得るトラブルですが、実際にセクハラに関するトラブルが起きた際には、迅速かつ適切な対応が企業には求められます。不十分な対応を取ってしまった場合には、企業としての信頼性の低下や損害賠償訴訟等のリスクを招きかねないため、セクハラへの適切な対応手順や予防策を事前に把握しておくことが重要です。

そこで本記事では、セクハラが発生した際に企業がとるべき対応方法を、注意点や予防策と合わせて解説します。この記事を読むことで、セクハラの一般論や対応策を知ることができます。

昔はこうだった、は通用しない

色んなお客様から、「先々代の頃には、普通に社長が女性従業員の…」といったエピソードを聞くことがあります。

しかしながら、パワハラにも言えることですが、「昔は(俺の時代は)こうだった」は通用しません。むしろ、自覚症状がないと、「それはセクハラですよ」と女性社員が笑って指摘しているのが、実は「頼むから不愉快なのでやめてほしい」と希望している、ということに気付くことすらできません。特に、若い従業員たちは、この種の冗談に耐えられないケースが多いと思われるので、今後トラブルが増えることが予測されます。

セクハラへの対応が不十分な企業が負うリスクと責任

企業としての信頼の低下

セクハラに対する予防策を講じていない、セクハラ発生後の対応が遅いといった状況が露呈した場合、世間や従業員から信頼を失う事態になりかねません。発生したセクハラ問題に適切な対応ができず、行政処分による企業名の公表や裁判等のトラブルに発展したことをニュースで世間に公表されてしまうと、企業イメージが大きく低下する恐れがあります。

 

また、「ハラスメントから守ってくれる体制が整っていない」と従業員が感じてしまえば、企業への不信感が募ることも避けられません。このような事態を防ぐためにも、企業はセクハラへの対策を的確に講じておく必要があります。実際、セクハラの予防策や事案発生後の対応を企業が講じることは、男女雇用機会均等法によって法律上の義務として定められているます。したがって、従業員からの信頼を維持し、企業イメージを守るためにも、適切な社内体制の構築が必須と言えます。

職場環境の悪化

セクハラに対して適切な対応をとれないことは、職場環境の悪化に直結します。

 

まず、被害者は精神的苦痛を負い、業務への集中力低下、休職、最悪の場合は退職に至ることもあります。これは個人の問題だけでなく、直接的に業務の遂行や生産性にも悪影響を及ぼします。さらに、セクハラを行う従業員が処罰されず放置されていると、加害者の行為がエスカレートし、新たな被害者が生まれる可能性が高まります。このような状況が続くと、職場の士気(従業員のモチベーション)や生産性の低下を引き起こす事態に発展しかねません。このような事態が発生してしまうと、他の従業員からもメンタル不調、休職者、退職者が出てきてしまい、業務に多大な悪影響を及ぼし、さらなる不満が生まれてしまう悪循環に陥りかねません。

 

従業員全員が快適かつ安全にに働くことができる職場環境を整え、規律を保つためには、セクハラの対応を迅速かつ適切に行うことが不可欠です。

損害賠償請求や労基署対応、組合対応等等のに発展

セクハラが原因で精神疾患を発症した場合、労災保険の対象となるほか、セクハラが発生したことに対して企業が十分な対応を行なっていなければ、損害賠償請求等を起こされる可能性が高まります。企業には、男女雇用機会均等法のセクハラ措置義務以外だけでなく、従業員が損害を発生させた場合に連帯して責任を負う使用者責任(民法715条)や、安全で働きやすい職場環境を作る安全配慮義務(労働契約法5条)といった法律上の責任があります。

 

セクハラの放置や不十分な対応が続けば、これらの法的義務に違反したとして、被害者から損害賠償請求を起こされかねません。また、被害者が労働組合に助けを求めた場合、団体交渉や争議トラブルに発展する可能性が高まります。団体交渉等の対応には多大な労力が必要になるため、このような問題を起こさせないためにも、セクハラ防止体制をあらかじめ整えておくことが重要です。

セクハラが発生した際に企業がとるべき対応の流れ

被害者と加害者を早急に隔離する

私の経験上、セクハラに関するトラブルが泥沼化するのは、「とりあえず話だけ聞いた」、「どっちとも言えなさそうなので、特に何も対処することなく、ただ話を聞いて終わった」といいうパターンです。

セクハラが発覚した際にまず講じるべき措置は、被害者と加害者を隔離することです。過去には、被害者と加害者の隔離が不十分であったことが、被害を受けた従業員に対する環境調整義務に著しく違反する行為と判断された裁判例(札幌地裁判平成22729日)もあり、たとえセクハラの態様が軽微なものであっても、職場環境が悪化している以上は被害者と加害者を隔離することが重要です。

隔離の方法については、被害者と加害者を異なる事業所や店舗へ配属し、物理的に職場を切り離すことが推奨されます。難しい場合は、処分が決まるまで加害者を自宅待機させることも有効です。ただし、これらの措置は事案の緊急性と深刻度を十分に考慮した上で対応する必要があります。特に自宅待機を要請する場合は、その期間の給与の取り扱いなども含めて、不当な不利益変更とならないように適切な対応を取ることが求められます。

事実関係を調査する

セクハラの相談や報告があった際には、その内容の真偽や詳しい事実関係を把握するための調査を行わなければなりません。まずは被害者の言い分をしっかりと確認する必要があります。しかし被害者の意見が事実と異なる可能性もあるため、加害者側の言い分や第三者である同僚たちの意見を聞くことも重要です。

ヒアリングをする際は、感情的な判断を避け、客観的な事実のみを確認するよう心がけます。5W1HWhen《いつ》、Where《どこで》、Who《誰が》、What《何を》、Why《なぜ》、How《どのように》)を意識して、具体的な言動や日時、場所などを可能な限り特定します。

 

また、本人の同意のもとで録音や調書を残すことで、後に訴訟等のトラブルに発展した際に証拠として使うことができます。

事実認定の判断をする

事実調査によって十分な情報が集まった段階で、セクハラ被害の有無や被害の程度を認定する判断に進みます。事実認定は、客観性と公平性が担保されていることが重要で、事実調査の時点で幅広い立場の意見や情報を集めることが信頼性の高い結論を出すことにつながります。自社内だけの判断に客観性や公平性の不安がある場合には、弁護士等の第三者から専門的なアドバイスを受けることを推奨いたします。

加害者の処分を検討する

事実認定の判断でセクハラがあったとの結論に至った場合は、加害者への処分を検討する必要があります。処分は、就業規則に基づき、セクハラの程度に応じた重さのものを選択することが重要です。処分の方法には、配置転換等の軽微なものから懲戒解雇のようなかなり重い処罰までさまざまな種類があります。被害の態様に対して重すぎる処分をしてしまえば、加害者側から処分の妥当性を問う訴えを起こされかねません。逆に軽すぎる処罰では戒めの効果が働かないため、過去の裁判例等を参考にしながら、法的な観点から妥当な処分を選択する必要があります。

被害者のケアを行う

事実としてセクハラがあったかどうかに関わらず、セクハラの被害を受けた従業員のケアは必ず行わなければなりません。被害者の精神状態に配慮し、場合によっては産業医や外部カウンセラーの利用を勧めましょう。業務の軽減や休職制度の活用等、企業としてできる限りのサポートを行うことが重要です。また、セクハラトラブルの結果、職場内で不利益な取り扱いを受けている場合は、早急に中止させて職場内での立場回復をサポートすることも必要です。

セクハラの再発を防止するための対応策

加害者への処分を公表する

セクハラが発生した際に加害者に何らかの処分を下した場合は、その処分内容を社内に公表しましょう。従業員たちに対する戒めになり、再発防止の効果が見込めます。また、企業として適切な対応をしたことを示すことにもつながるため、従業員からの信頼を向上させる狙いもあります。

ただし、事件の内容や処分内容を全て公開することは避け、事件の当事者たちのプライバシーや名誉を守る必要がある点に留意しましょう。具体的な公表の範囲は事案によりますので、更なるトラブルへの発展を防ぐためにも、専門家の意見も聴いたうえで、各社で検討してください。

企業としての方針を明確化して周知する

セクハラの再発を防止するためには、社内規定を整備して企業としての対処方針を明確にしましょう。特に、セクハラの加害者に対してどのような処罰を下すのかを明記することで、抑止効果を見込むことができます。そして、構築した社内規定は従業員に周知することが重要です。また、掲示による公表だけでなく、研修等を定期的に実施して従業員の理解を深めることで、セクハラ防止の継続的な啓発に努める必要があります。

相談体制を整備する

セクハラの被害者や目撃者が相談をできる体制を整えることは、重要なセクハラ予防策の一つです。セクハラは、企業側が早期に発見することで被害の拡大防止を図ることができます。社内窓口しか無ければ、情報漏洩や自分の評価への影響を懸念して相談を躊躇することも考えられます。より相談しやすい環境を作るためには、弁護士事務所等外部の窓口へつながる体制を構築することが有効な手段です。

セクハラに関するトラブル対応は弁護士にご相談を

セクハラへの対応を放置したり適切な対応を取らなかった場合には、信頼度の低下や損害賠償訴訟等、企業としても多くのリスクを負う可能性が高まります。セクハラが発生した際には、適切な順序で客観的かつ公平性のある判断を進めることが求められます。また、再発防止に向けて十分な予防策を講じることも必要です。セクハラによるトラブルやリスクを最小限に抑えるためには、自社内の都合に左右されず、合理的に適切な順序で対応を進めなければなりません。法的な観点から専門的な判断も必要になるため、セクハラへの対応を進める際は弁護士に相談することを推奨いたします。

弊所では、企業人事の実績が豊富な弁護士が、初動対応や防止策の検討から訴訟手続きに至るまで徹底サポートいたします。セクハラ対応に悩んだ際は、ぜひご相談ください。

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