企業のハラスメント対応と対策とは?
ハラスメントの種類と企業リスク
近年、職場におけるハラスメントが大きな社会問題となっています。企業の経営者や人事担当者の皆様にとって、ハラスメントへの適切な対応は避けて通れない重要な課題です。そこで、まずはハラスメントの種類と、それが企業にもたらすリスクについて詳しく見ていきましょう。
職場で発生する主なハラスメントの種類
職場で発生するハラスメントは、多岐にわたります。主なものとしては以下が挙げられます.
セクシュアルハラスメント(セクハラ)
性的な言動により、相手に不快感を与えたり、職場環境を悪化させる行為です。
【例】不必要に体に触れる、性的な冗談を繰り返し言う、性的な要求への対応を条件に職場での利益を与える等
パワーハラスメント(パワハラ)
職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為です。
【例】他の従業員の前で大声で叱責する、明らかに達成不可能な業務目標を設定する、能力や経験とかけ離れた簡単な仕事しか与えない等
マタニティハラスメント(マタハラ)・パタニティハラスメント(パタハラ)
妊娠・出産・育児休業等を理由とする不利益取り扱いや嫌がらせをする行為です。
【例】「出産したら仕事は辞めて専業主婦になるべき」「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」等の発言
モラルハラスメント(モラハラ)
言葉や態度、身振りや文書などによって、長期的に相手の人格や尊厳を傷つけたり、不快にさせたりする行為です。
【例】挨拶をしても無視をする、業務に必要な連絡をしない等
SOGIハラスメント(ソジハラ)
性的指向(Sexual Orientation)や性自認(Gender Identity)に関する差別的言動や嫌がらせを指します。
【例】アウティング(許可なく他人の性的指向や性自認を公表すること)、性別役割の強要(戸籍上の性別に基づいた服装を強制する)等
これらのハラスメントは、時として複合的に発生することもあり、その境界線が曖昧な場合もあります。そのため、企業としては広範囲にわたるハラスメントの可能性を認識し、対策を講じる必要があります。
特に、SOGIハラスメントについて、日本ではLGBTに対する理解が諸外国より遅れをとっており、中高年層を中心に、未だに古い価値観や偏見を持ち続けている人がいるため注意が必要です。
ハラスメントが企業にもたらす影響と法的責任
ハラスメントは、被害者個人に深刻な影響を与えるだけでなく、企業にも多大な損害をもたらす可能性があります。具体的には以下のような影響が考えられます。
生産性の低下
ハラスメントを受けた従業員のモチベーションや業務効率が著しく低下し、組織全体の生産性に悪影響を及ぼします。
人材流出
ハラスメントが原因で優秀な人材が退職してしまう可能性があります。また、ハラスメントの噂が広まると、新たな人材の獲得も困難になるでしょう。
企業イメージの毀損
ハラスメント問題が公になると、企業の社会的評価が著しく低下し、取引先や顧客からの信頼を失う可能性があります。
法的責任と賠償
企業がハラスメント防止のための適切な措置を講じていなかった場合、使用者責任(民法第715条)や債務不履行(民法第415条)等を理由に、被害者に対して民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
行政処分
厚生労働省による是正指導や企業名公表などの行政処分を受ける可能性があります。
特に法的責任については、近年の法改正により、企業のハラスメント対策義務が強化されています。2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、企業に対してパワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置を講じることが義務付けられました。
さらに、セクシュアルハラスメントについては男女雇用機会均等法、マタニティハラスメントやパタニティハラスメントについては育児・介護休業法により、防止措置を講じることが義務付けられています。
これらの法的義務を怠った場合、企業名の公表などの行政処分を受ける可能性があるほか、民事訴訟において、使用者責任に基づく損害賠償責任を問われる可能性も高まります。
したがって、企業にとってハラスメント対策は、従業員の安全と健康を守るだけでなく、企業自身を守るためにも極めて重要な経営課題と言えるでしょう。
ハラスメント発生時の企業対応
ハラスメントが発生した際、企業の対応如何によっては問題が更に深刻化する可能性があります。そのため、適切かつ迅速な対応が求められます。ここでは、ハラスメント発生時の企業対応について、段階を追って解説します。
初動対応の重要性
ハラスメントの申し立てや相談があった場合、その初動対応が極めて重要です。以下のポイントに注意しつつ速やかに対応しましょう。
迅速な対応
相談を受けたら、速やかに対応を開始します。放置することで問題が悪化する可能性があります。
真摯な傾聴
被害者の話を丁寧に聞き、詳細な状況を把握します。この際、被害者を非難したり、軽視するような態度は絶対に避けましょう。
安全確保
被害者の安全を最優先に考え、必要に応じて配置転換等、加害者とされる人物との接触を避けるなどの措置を講じます。
秘密保持
相談内容の秘密保持を徹底し、関係者以外に情報が漏れないよう細心の注意を払います。
組織的対応
個人で抱え込まず、人事部門や法務部門、外部の専門家などと連携し、組織的に対応することが重要です。
適切な初動対応は、被害の拡大を防ぎ、また企業としての誠実な姿勢を示すことにもつながります。
適切な調査と事実確認の方法
初動対応の後、事実関係を明確にするための調査を行います。調査にあたっては、以下の点に留意しましょう。
調査チームの編成
公平性を保つため、事案に直接関与していない者で調査チームを編成します。必要に応じて外部の専門家(弁護士など)を含めることも検討しましょう。
調査計画の立案
誰から、どのような順序で聞き取りを行うか、どのような証拠を収集するかなど、具体的な調査計画を立てます。
客観的な事実確認
感情的な判断を避け、客観的な事実のみを確認するよう心がけます。5W1H(When《いつ》、Where《どこで》、Who《誰が》、What《何を》、Why《なぜ》、How《どのように》)を意識して、具体的な言動や日時、場所などを可能な限り特定します。
証拠の収集
メールやチャットのログ、監視カメラの映像など、客観的な証拠を可能な限り収集します。ただし、プライバシーの侵害にならないよう注意が必要です。
聞き取り調査
被害者、加害者とされる人物、そして第三者の証言を慎重に聴取します。この際、誘導尋問を避け、中立的な立場で事実確認を行います。
記録の作成
調査内容を詳細に記録し、後の対応や再発防止に活用できるようにします。
調査の過程では、関係者のプライバシーや名誉を尊重し、二次被害が生じないよう細心の注意を払うことが重要です。
被害者保護と加害者への対応
事実確認後は、被害者の保護と加害者への適切な対応が必要です。
被害者保護
・心のケア
必要に応じて、カウンセリングなどの支援を提供します。
・職場環境の調整
被害者が安心して働ける環境を整備します(例:加害者との接触を避ける配置転換など)。
・不利益取扱いの禁止
相談したことを理由とする不利益な取り扱いがないことを明確にします。
加害者への対応
・事実確認
加害者とされる人物に対し、認識の違いがないか確認します。
・処分の検討
就業規則に基づき、適切な処分を検討します。この際、過去の類似事例との平等性も考慮します。
・再発防止
加害者に対する教育や研修を実施し、再発を防止します。
職場全体への対応
・情報共有
プライバシーに配慮しつつ、必要な範囲で事案の概要と対応結果を共有します。
・再発防止策の周知
類似事案の再発を防ぐための取り組みを説明し、全従業員の意識向上を図ります。
ハラスメント事案への対応は、単に個別の問題を解決するだけでなく、職場全体の風土改善につなげることが重要です。
効果的なハラスメント防止策
ハラスメントが発生してからの対応も重要ですが、それ以上に重要なのが未然防止です。ここでは、企業が取り組むべき効果的なハラスメント防止策について解説します。
明確な方針とガイドラインの策定
ハラスメント防止の第一歩は、会社としての明確な方針を示すことです。以下の手順で方針とガイドラインを作成しましょう。
ハラスメント防止方針の策定
・経営トップのメッセージを含め、ハラスメントを絶対に許さない会社の姿勢を明確に示します。
・この方針を社内外に公表し、全従業員に周知徹底します。
具体的なガイドラインの作成
・ハラスメントの定義や具体例を示し、何がハラスメントに当たるのかを明確にします。
・禁止される行為や、ハラスメントが発生した場合の対応手順を明記します。
就業規則への反映
・ハラスメント行為を懲戒事由として明確に規定します。
・相談者や調査協力者に対する不利益取扱いの禁止も明記します。
これらの方針やガイドラインは、定期的に見直しと更新を行い、常に最新の法令や社会情勢に対応したものにすることが重要です。
従業員教育とトレーニングの実施
ハラスメント防止には、全従業員の意識向上が不可欠です。継続的な教育とトレーニングにより、ハラスメントに対する従業員の意識を高め、健全な職場環境の醸成につなげることができます。
定期的な研修の実施
・新入社員研修や管理職研修など、階層別の研修を実施します。
・ロールプレイングなど、参加型の研修を取り入れることで、理解度を高めます。
e-ラーニングの活用
時間や場所の制約なく学習できるe-ラーニングを導入し、全従業員が定期的に受講できるようにします。
ケーススタディの共有
実際にあった事例(匿名化したもの)や仮想事例を用いて、具体的な状況での適切な行動を学ぶ機会を設けます。
アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)への対応
自身の無意識の偏見に気づき、それを克服するためのトレーニングを実施します。
コミュニケーションスキル向上
ハラスメントの多くは、コミュニケーションの齟齬から生じます。適切なコミュニケーションスキルを学ぶ機会を設けましょう。相談窓口の設置と運用
従業員が安心して相談できる窓口を設置することは、早期発見・早期対応につながります。
複数の相談窓口の設置
・社内窓口(人事部門など)だけでなく、社外窓口(専門の相談機関など)も設置し、相談しやすい環境を整えます。
・男性・女性両方の相談員を配置するなど、多様性に配慮します。
相談員の育成
相談を受ける担当者に対し、カウンセリングスキルやハラスメントに関する専門知識を習得するための研修を実施します。
匿名相談の受付
匿名でも相談できる仕組み(例:専用のメールアドレスや投書箱の設置)を用意します。
相談窓口の周知
・相談窓口の連絡先や利用方法を、社内ポータルサイトや掲示板、定期的な案内メールなどで繰り返し周知します。
・新入社員研修や定期研修の際にも、相談窓口の利用方法について説明する時間を設けます。
迅速な対応と適切なフォローアップ
・相談を受けた後の対応手順を明確にし、迅速かつ適切な対応を心がけます。
・相談者へのフォローアップを忘れずに行い、問題が解決されたかを確認します。
実効性の評価と改善
・定期的に相談窓口の利用状況や対応結果を分析し、必要に応じて改善を行います。
・従業員アンケートなどを通じて、相談窓口の認知度や信頼度を確認し、より利用しやすい窓口作りに努めます。
以上のような防止策を総合的に実施することで、ハラスメントのリスクを大幅に低減させることができます。しかし、完全にハラスメントをなくすことは困難であり、万が一の事態に備えて専門家のサポートを受けることも重要です。
弁護士への相談のメリット
ハラスメント対策において、弁護士への相談は多くのメリットがあります。特に複雑な事案や法的リスクが高い場合には、専門家の助言を得ることが非常に重要です。
法的リスク評価と対策立案
弁護士に相談することで、以下のような観点から法的リスクを評価し、適切な対策を立案することができます。
法的責任の範囲の明確化
・企業としての法的責任の範囲を明確にし、取るべき対応の優先順位を決定します。
・近年の法改正や判例の動向を踏まえた、最新の法的見解を得ることができます。
コンプライアンス体制の構築
・法令遵守の観点から、現在の社内規定やガイドラインの妥当性をチェックします。
・必要に応じて、規定やガイドラインの改定案を提案します。
リスクマネジメント戦略の策定
・想定されるリスクシナリオごとの対応策を検討し、事前に準備することができます。
・訴訟リスクの評価と、それを最小化するための戦略立案が可能です。
労務管理の適正化
・ハラスメント防止の観点から、労務管理全般の見直しと改善提案を受けられます。・就業規則や労使協定の適正化など、労務関連書類の法的チェックも可能です。
公平な調査と適切な対応の支援
ハラスメント事案が発生した際、弁護士のサポートを受けることで、より公平かつ適切な対応が可能になります。
中立的な立場での調査
・社内の利害関係から離れた第三者として、公平な調査を実施します。
・証拠の収集と評価、関係者へのヒアリングなど、法的な観点から適切な調査手法をアドバイスします。
適切な処分の判断
・過去の判例や類似事例を参考に、適切な処分内容を提案します。
・処分が訴訟になった場合でも、法的に正当化できる根拠を準備します。
被害者保護と加害者対応のバランス
・被害者の保護を最優先しつつ、加害者の権利にも配慮した対応を助言します。
・二次被害の防止や、職場復帰支援などについても、法的リスクを考慮したアドバイスが得られます。
交渉や調停のサポート
・被害者や加害者との交渉が必要な場合、法的な観点からサポートします。
・必要に応じて、調停や和解などの代替的紛争解決手段の利用も提案します。
訴訟対応
・万が一訴訟に発展した場合、証拠の収集から法廷での主張立証まで、一貫したサポートを受けられます。
・訴訟リスクを最小限に抑えつつ、企業の利益を最大限守る戦略を立案します。
レピュテーションマネジメント
・事案が公になった際の広報対応について、法的リスクを考慮したアドバイスを提供します。・社会的評価(レピュテーション)への影響を最小限に抑える対応策を提案します。
弁護士への相談は、単にトラブル対応だけでなく、予防法務の観点からも非常に有効です。定期的に専門家のチェックを受けることで、潜在的なリスクを早期に発見し、対策を講じることができます。また、常に最新の法改正や判例の動向を踏まえたアドバイスを得られることも、大きなメリットと言えるでしょう。
ハラスメント問題は、企業経営に大きな影響を与える可能性がある重要課題です。適切な対応と防止策の実施は、従業員の安全と健康を守るだけでなく、企業価値の向上にもつながります。専門家のサポートを適切に活用しながら、継続的にハラスメント対策に取り組むことが、今後の企業経営には不可欠と言えるでしょう。
まとめ
本コラムでは、企業におけるハラスメントの種類とリスク、発生時の対応、効果的な防止策、そして弁護士への相談のメリットについて詳しく解説しました。
ハラスメントは、セクハラやパワハラだけでなく、マタハラ、パタハラ、モラハラ、SOGIハラなど多岐にわたります。これらは従業員個人に深刻な影響を与えるだけでなく、企業にも生産性の低下や人材流出、イメージ低下、法的責任など多大な損害をもたらす可能性があります。
そのため、企業はハラスメント防止のための明確な方針とガイドラインを策定し、従業員教育を徹底することが重要です。また、相談窓口の設置や適切な対応手順の確立も不可欠です。
ハラスメントが発生した際は、迅速かつ適切な初動対応、公平な調査、被害者保護と加害者への適切な対応が求められます。これらの対応は、企業の社会的責任を果たすだけでなく、法的リスクを最小限に抑える上でも極めて重要です。
しかし、ハラスメント問題は複雑で専門的な知識を要するため、弁護士への相談が有効です。弁護士は法的リスク評価や対策立案、公平な調査支援、適切な処分の判断など、多岐にわたるサポートを提供できます。
ハラスメント問題は企業経営における重要課題の一つです。適切な対応と防止策の実施は、従業員の安全と健康を守るだけでなく、企業価値の向上にもつながります。ハラスメント対応や防止策でお困りの方は、初回相談料は無料になっておりますのでお気軽に当事務所までご相談ください。